トップページ»

「内部被曝に使用される薬剤」

木曜日, 9月 25th, 2014

KW:薬名検索・被爆・内部被曝・ヨウ化カリウム・ラディオガルダーゼカプセル・potassium iodide・ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物・iron(III)hexacyanoferrate(II)

Q:内部被曝に使用される薬剤について

A:薬価収載されている薬剤で、その承認適応として『放射能の内部被曝』を持つ薬剤は現在のところない。ただ、承認適応は無いが、使用例が報告されている薬剤、新たに導入された薬剤として、次の薬剤が報告されている。

[321]無機質製剤
ヨウ化カリウム丸50mg「日医工」 (日医工)
1丸中にヨウ化カリウム 50mg含有する黒褐色の丸剤である。
添加物として、カンゾウ末、センブリ末、トウモロコシデンプン、グリセリン、セラックを含む。
本品の1丸重量は約120mgである。

ヨウ化カリウム「ヨシダ」 (吉田製薬)
原末(99.0%)

一般名:ヨウ化カリウム(potassium iodide)。分子式:KI =166.00。
性 状:無色又は白色の結晶又は白色の結晶性粉末である。水に極めて溶けやすく、エタノール(95)にやや溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。本品は湿った空気中でわずかに潮解する。
適応症:甲状腺腫(ヨード欠乏によるもの及び甲状腺機能亢進症を伴うもの)
下記疾患に伴う喀痰喀出困難:慢性気管支炎、喘息。
第三期梅毒。
禁 忌:[1.ヨウ素過敏症患者[ヨウ素誘発甲状腺腫発現恐れ。]。 肺結核患者[結核組織に易集合。再燃恐れ。]。
用法及び用量:甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺腫には、ヨウ化カリウムとして1日5-50mgを1-3回に分割経口投与。この場合は適応を慎重に考慮すること。慢性気管支炎及び喘息に伴う喀痰喀出困難並びに第三期梅毒には、ヨウ化カリウムとして通常成人1回0.1-0.5g(2丸-10丸)を1日3-4回経口投与する。なお、いずれの場合も、年齢、症状により適宜増減する。
使用上の注意(慎重投与):1.甲状腺機能亢進症患者[ヨウ素誘発甲状腺腫発生。]。2. 甲状腺機能低下症患者[症状悪化。]。3.腎機能障害患者[血清カリウム濃度過剰、症状悪化。]4.先天性筋強直症患者[カリウムにより症状悪化。]。5.高カリウム血症患者[症状悪化。]
重大な副作用(用途):長期連用:(1)ヨウ素中毒(頻度不明):結膜炎、眼瞼浮腫、鼻炎、喉頭炎、気管支炎、声門浮腫、喘息発作、前額痛、流涎、唾液腺腫脹、耳下腺炎、胃炎等の症状があらわれることがある。更に中毒症状が進行すると発疹、面疱、せつ、蕁麻疹、水疱、微熱、甲状腺腫、粘液水腫等の症状発現。(2) ヨウ素悪液質(頻度不明):皮膚の粗荒、体重減少、全身衰弱、心悸亢進、抑うつ、不眠、神経過敏、性欲減退、乳房の腫大と疼痛、骨盤痛発現。
その他の副作用(頻度不明):過敏症: 発疹等。消化器  悪心・嘔吐、胃痛、下痢、口腔・咽喉の灼熱感、金属味覚、歯痛、歯肉痛、血便(消化管出血)等。その他:かぜ症状、不規則性心拍、皮疹、原因不明の発熱、首・咽喉の腫脹等 
高齢者:一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意。
妊婦、産婦、授乳婦等:1.妊婦又は妊娠している可能性婦人-治療上の有益性[本剤は胎盤関門を通過し、胎児の甲状腺腫及び甲状腺機能異常発現可能性] 。2. 本剤投与中授乳回避[母乳中への移行が認められ、乳児に皮疹や甲状腺機能抑制発現可能性] 。
小児等:皮疹、甲状腺機能抑制発現可能性。
過量投与:多用量の経口摂取後は澱粉糊又は殻粉糊を投与。チオ硫酸ナトリウム1gを水にまぜ与える。塩類下剤(硫酸ナトリウム30gと250mLの水)。緩和剤として牛乳と卵。高食塩食が排除を速やかにする。発疹には収斂性包帯(酢酸アルミニウム洗浄剤)と酢酸コーチゾン50mgを6時間ごとに与える。
適用上の注意:1.本剤を長期連用する場合には定期的に血清カリウム濃度を測定することが望ましい。2.食直後の経口投与により、胃内容物に吸着されることがあるので、注意すること。また、制酸剤、牛乳等との併用は胃障害を軽減させることができる。
その他の注意:投薬時:本品は吸湿性があり、直接素手で触れないこと。
薬物動態
1.代謝・排泄:摂取したヨウ素の大部分は腎を経て尿中に、少量が糞便中に排泄される。また、唾液、胃液、腸液中に少量が、乳汁中にごく少量が分泌される。腎からの排泄はCl-と同じだが、Cl-の20倍も速い。1) 投与後24時間以内に65%-80%が尿中にあらわれる。
2.薬効薬理:ヨウ化カリウムは体内でヨウ化アルカリとして分布し、病的組織においてヨウ素を遊離する。甲状腺機能亢進症では、ヨウ素は3′,5′-cyclic AMPを介する甲状腺刺激ホルモンの作用を減弱させ、亢進症状を抑制する。また、ヨウ素は気管支粘膜分泌を促進し去痰作用を現す。更に、梅毒患者の肉芽組織に対する選択的な作用により、第三期梅毒患者のゴム腫の吸収促進に用いる。

ヨウ化カリウムの承認適応として放射線曝露時の治療に関する適応は含まれていない。従って『原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について』(原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会,平成14年4月)の報告を参照する。

安定ヨウ素剤予防服用量のまとめ

対象者 ヨウ素量 ヨウ化カリウム量
新生児*1 12.5mg 16.3mg
生後1ヵ月以上3歳未満*1

25mg

32.5mg
3歳以上13歳未満*2 38mg 50mg
13歳以上40歳未満*3 76mg 100mg

*a:新生児、生後1ヵ月以上3歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では、適当である。
*b:3歳以上13歳未満の対象者の服用に当たっては、3歳以上7歳未満の対象者の服用は、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では適当である。また7歳以上13歳未満の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウム丸薬1丸(ヨウ素量38mg、ヨウ化カリウム量50mg)を用いることが適当である。
*c:13歳以上40歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸(ヨウ素量76mg、ヨウ化カリウム量100mg)を用いることが適当である。
*d:なお、医薬品ヨウ化カリウムの製剤の実際の服用に当たっては、就学年齢を考慮すること。7歳以上13歳未満の対象者は、中学生以上に該当することから、緊急時における迅速な対応のために、小学1年-6年生迄の児童に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸、中学1年生以上に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸を採用することが実際的である。また、7歳以上であっても丸薬を服用できない者がいることに配慮する必要がある。
*e:40歳以上については、放射性ヨウ素による被曝による甲状腺癌等の発生確率が増加しないため、安定ヨウ素剤を服用する必要はない。

*f:医薬品ヨウ化カリウム、滅菌蒸留水、精製水、注射用水、単シロップ等は、原子力災害時に備え、あらかじめ準備し、的確に管理すると共に、それらを使用できる期限に注意する。

 

☀ラディオガルダーゼ®カプセル500mg(独・ハイル社-日本メジフィジックス)36Cap./瓶[2010年10月27日製造販売承認取得]

一般名:ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物[iron(III)hexacyanoferrate(II)]500mg/Cap.[鉄として154.7mg相当]。別名:プルシアンブルー(prussian blue)、ベロ藍。
分子式:Fe4[Fe(CN)6]3・xH2O(x=14-16)=859.23(脱水和物として)

禁 忌:本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者。
適応症:放射性セシウム(137Csなど)による体内汚染の軽減
用法・用量:通常、1回6Cap.(ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)水和物として3g)を1日3回経口投与する。なお、患者の状態、年齢、体重に応じて適宜増減する。
用法・用量関連注意
(1)治療開始後は糞便中及び尿中、又は全身の放射能をシンチレーションカウンタ等で適宜測定し、本剤の投与継続の必要性を検討すること。(2)ゴイアニア事故における本剤の投与量を参考に、用量及び投与回数を適宜増減すること。
使用上の注意(慎重投与)(1)不整脈又は電解質異常がある患者[低カリウム血症により症状増悪]、(2)消化管の蠕動運動の障害のある患者[本剤と結合した放射性セシウムが消化管局所に滞留することで放射線障害発現]。(3)鉄代謝異常の患者[長期投与により本剤含有鉄蓄積]。(重要な基本的注意)(1)投与中は定期的に血清カリウム濃度の検査、必要に応じカリウム補給。(2)本剤服用により体内で遊離した鉄が吸収され、蓄積の可能性-投与期間中血清フェリチン等の推移を適宜確認。

相互作用

薬剤名 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
副腎皮質ホルモン製剤、グリチルリチン製剤、利尿剤 低カリウム血症を増悪させる恐れがある。 これらの薬剤はカリウムの排泄作用がある。
テトラサイクリン系抗生物質 テトラサイクリン系抗生物質の吸収が減弱する恐れ。 本剤中の鉄イオンと難溶性のキレートを形成し、テトラサイクリン系抗生物質の吸収を阻害する可能性がある。

副作用(本剤は副作用発現頻度が明確となる臨床試験を実施していない)

  頻度不明
消化器 便秘、胃部不快感
その他 低カリウム血症

高齢者:生理機能低下、副作用発現に注意慎重投与。
妊婦・産婦・授乳婦:治療上の有益性。
小児等:低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性未確立。
過量投与:ゴイアニアの事故において、本剤が1日に20g投与された場合に、胃部不快感が認められたとの報告がある。
適用上の注意:服用時:本剤服用により、便が青みを帯びる場合がある。また、便の変色により放射性被曝に起因する消化器障害による血便等の発現を見逃す恐れがあるので注意。
その他の注意:排泄物等の取扱について、医療法その他の放射線防御に関する法令、関連する告示及び通知等を遵守し、適正に処理すること[放射性セシウムと結合した本剤は主に糞便中に排泄されるため、本剤投与中の患者の糞便中には放射性セシウムが高濃度に含まれる可能性がある。]
薬効薬理:放射性セシウムの排泄促進作用[放射性セシウム(137Cs)を投与したラットに、放射性セシウム投与直後から本剤を11日間経口投与したとき、血液、肝臓、腎臓、脾臓、大腿骨及び全身の放射能を減少した]。
薬物動態:本剤をブタに単回胃内投与又はラットに5日間反復経口投与したとき、本剤は殆ど吸収されず、糞便中に排泄された。

本剤の導入に際し日本メジフィジックス社は、次の文書を配布している。
『放射性セシウムは、原子力関連施設における廃棄物などに含まれているために、災害時において被ばく原因となるリスクがあります。また、医療用(癌治療の放射性線源)や工業用(滅菌や測定)などに広範に使用されている放射性同位元素のひとつです。放射性セシウムによる被ばくが発生した場合の体内汚染軽減のためには、出来るだけ短時間の内に本剤を経口投与することが望ましいことから、今後、国内各地域の緊急被ばく医療対応機関、災害拠点病院等での備蓄の推進が期待されます。
本剤は、国際的には、米国において Strategic National Stockpile の制度に基づき国家備蓄が開始されているほか、世界保健機関(WHO) においても Essential Medicine の一つとして備蓄推奨のリストに上げられるなど、標準的な放射性セシウム体内除去剤として位置付けられています。
一方国内では、厚生労働省による「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、関係する学会等からの導入要望を受け、今回迅速な承認取得に至りました。今後適切な備蓄体制を推し進めるための制度的な枠組みについて、原子力災害対策あるいは国民保護計画の観点から新たに整備されていくことが望まれます。弊社は、本剤に対する社会的なニーズを認識し、本剤の供給を通じて、わが国における原子力災害対策に貢献したいと考えています。』

1)ヨウ化カリウム添付文書、2009年9月作成(第1版)
2)NEWS Release:日本メジフィジックス, 2010.11.4.
3)日本メジフィジックス 医療関係者専用情報, 2010.11.4.
4)ラディオガルダーゼカプセル500mg添付文書,2010.11.

                  [011.1.POT:2011.5.5.古泉秀夫]