トップページ»

「やけど虫について」

日曜日, 9月 1st, 2013

 

KW:毒性中毒・やけど虫・アオバアリガタハネカクシ・ハネカクシ・青葉蟻型羽根隠・Rove beetle・ランプ虫・電気虫・火傷虫・ペデリン

Q:「やけど虫」について

A:「やけど虫」とは、アオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes Curtis)の俗称である。ハネカクシとは、甲虫目ハネカクシ下目(Staphyliniformia)、ハネカクシ上科(Staphylinoidea)、ハネカクシ科(Staphylinidae)の昆虫で英名:Rove beetle。前翅が小さく、前翅に大きな後翅を細かく折りたたんで隠しているように見えるものが多いことからこの名が付けられたとされる。インドネシアではBinatang Tomcat(ビナタン・トムキャット:ビナタンは動物・生物の意味)と呼ばれている。また灯火に誘引されるので、ランプ虫、電気虫等の別称で呼ぶ地方もある。その他、火傷虫等といわれている。

生殖場所:アオバアリガタハネカクシ(青葉蟻型羽根隠)は、日本全土に分布(北海道、本州、四国、九州、沖縄諸島)しており、水田、畑、池沼の周辺や川岸に棲み成虫は夏期灯火に飛来する。昼間は上記の草むらや石の下などに見られる。成虫は5月から10月頃まで灯火に飛来するが、6、7月の夜間に多い。雌成虫が越冬する。

鑑別法:成虫は約6.5-7mmで、蟻のような形をしている。頭部は黒く、前胸と中胸は橙黄色、後胸は黒い。翅鞘は青緑色で、脚は黄褐色。腹背は橙赤色で、尾端の2節が黒い(写真参照)。

生態:成虫・幼虫ともに雑食性であるが、肉食性の傾向が強く、他の昆虫類やダニ、植物のやや腐敗したものなどを摂食する。成虫はよく飛翔し、灯火、特に蛍光灯や水銀灯に、よく飛来する。image

予防:夜間灯火に飛来するので、網戸、蚊帳などで防ぐ。屋外に誘蛾灯を付けるのも良いとされている。虫体液が付着すると皮膚炎を惹起するので虫が躯に止まったら虫を潰さないようにそっと払い除けるようにする。

毒性:卵、幼虫、蛹、成虫ともに体液に有毒なペデリンを有しており、これに触れると人の皮膚は数時間後に赤く腫れ、まもなく水疱が生じる。

症状:有毒物質のペデリンは体液中に含まれており、虫体液が皮膚に付着すると、約2時間程度で痒みが起こり、次いで発赤、小水疱が生じ(線状皮膚炎)、更に膿痂疹となり痛みと熱感を伴う。眼に入ると激しく痛み、結膜炎、角膜潰瘍、虹彩毛様体炎などを起こす。

応急手当:体液が皮膚に付着した場合、石鹸を用いて流水で洗滌し、湿疹やかぶれ用の塗り薬あるいはステロイド軟膏を塗布、冷湿布する。やけど虫には虫除けスプレーの効果は殆ど期待できない。放置すると治癒するのに2週間以上掛かる。細菌感染を防ぐため、抗生物質を含んだステロイド軟膏塗布。眼に入った場合には早めに水で洗い流し、直ちに眼科医を受診する。

駆除:体に付着した場合や屋内に侵入してきた場合には、むやみに素手で触らないように取り除くか、市販のエアゾール剤で殺虫する。また、光への誘引を防ぐために、夜間は窓を閉める、網戸にするなど開放しないよう注意する。

ペデリン[pederin]はアオバアリガタハネカクシ(Paederus fuscipes)の有毒成分。C25H45NO9、融点114℃。二つのテトラヒドロピラン環を持つ水疱を発生させる毒性アミドの一つである。アオバアリガタハネカクシを含むハネカクシ科Paederus属の甲虫の血液リンパに含まれている。pederinは、2,500万匹の採取されたアオバアリガタハネカクシを処理することで初めて同定された。化合物名はこの昆虫の属名に由来する。pederinの含有量はアオバアリガタハネカクシの体重のおよそ0.025%である。pederinの生産は、Paederus属昆虫内での内部共生生物(シュードモナス属)の活動によるものであることが明らかにされている。pederinの製造は概して雌の成虫のみに限られる。幼虫および雄は母親から卵を通して獲得するか、摂取したpederinのみを貯蔵する。

1)(財)日本自然保護協会・編・監修:フィールドガイドシリーズ② 野外における危険な生物;平凡社,1994
2)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
3)北園大園:毒のいきもの;彩図社,2007
4)大木幸介:動物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで;講談社,1999
5)株式会社環境コントロールセンター,2013.7.30.
6)篠永 哲・他監:フィールドベスト図鑑v.17-危険・有毒生物;学研教育出版,2013

         [63.099.PAE:2013.8.1.古泉秀夫]