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「小麦加水分解物について」

火曜日, 7月 30th, 2013

 

KW:薬名検索・小麦加水分解物・運動誘発性のアレルギー・小麦・運動誘発性アレルギー・グルパール19S・茶のしずく石鹸

Q:平成22年10月15日付け薬食安発1015第2号・薬食審査発1015第13号[厚生労働省医薬食品局安全対策課長・審査管理課長連名通知]として『小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について』なる文書が発出された。その内容は『最近、小麦を加水分解した成分を含有した製品の使用者において、小麦含有食品を摂取してその後に運動した際に全身性のアレルギーを発症した事例が報告されました。このような「運動誘発性のアレルギー」は、食品で発生することがありますが、化粧品等での事例はこれまでによく知られていないため、小麦加水分解物を含有する化粧品等の製造販売業者に対し、使用者への注意喚起、運動誘発性のアレルギーに関する副作用報告の徹底等について、本日付で通知を発出いたしましたのでお知らせいたします。』とするものである。『小麦加水分解物』とは何か

A:厚生労働省によると、原因物質の可能性があるのは、“茶のしずく石鹸”に配合されている保湿成分「グルパール19S」であるとされる「グルパール19S」は、アレルギー学会の 「化粧品中の蛋白加水分解物の安全性に関する特別委員会」の中間報告でも、アレルギー症状を引き起こす成分に特定されており、まだ分析中であるが、アレルギー症状の原因としてほぼ断定して間違いないと言われている。「グルパール19S」は(株)片山化学工業研究所が開発した加水分解コムギ末で、他の加水分解コムギ末より分子量が大きいために、アレルギー症状を引き起こしやすいという可能性がある。

『加水分解小麦』とは、小麦の蛋白質を酵素や塩酸などを使って細かく分解した(加水分解)ものである。加水分解することによって水に溶け易くなり、高い保湿性を得るため、多くの化粧品やシャンプー・石鹸などの製品に添加される。また、『加水分解小麦』とは、酵素あるいは塩酸などにより分解することによって植物蛋白(小麦等)由来の加水分解物が得られ、ペプトンその他の蛋白類を含み、微かな臭いを有する白色の粉末である。優れた起泡性と泡の持続性を有するため、刺激性のある既存の起泡剤と置き換えることにより、泡の量を減らすことなく刺激性を低減できるとされている等の報告が見られる。(http://kenko.data-max.co.jp/2011/08/post_811.html)。

小麦澱粉は小麦[Triticum sativum Lamarck(Gramineae)]の種子から得た澱粉である。
性状:本品は白色の塊又は粉末で、臭い及び味はない。本品は水又はエタノール、その他の有機溶媒に溶けない。本品を指又は歯の間で圧すると砂鳴を発する。

製法:コムギデンプンは、小麦粉から麩を製造する時にその副産物として生産される。小麦粉に水と食塩を加えて練り合わせると、小麦蛋白が膨潤して粘着する。これに更に水を加えて蛋白を洗い出し、澱粉乳を篩い分け、テーブルの上を流すと、テーブルの上に上質の小麦澱粉が沈殿し、テーブルの末端から流れ落ちる液には更に小澱粉粒が取れる。なお、澱粉乳を篩い分けたグルテンは、麩を製造したり、グルタミン酸ナトリウムの原料とする。

名称[化学名]:コムギデンプン。英名:Wheat Starch。公定書名(日局10):コムギデンプン。BP’80:Starches(米:トウモロコシ、バレイショデンプンを含む)。西独:Weizenstärke。FP:Amidon de Ble。JIS:デンプン。

基原:小麦はイネ科の単子葉類。1年生-越年生の草本で、世界各地で広く栽培されている。コムギデンプンの生産量は年間約13万噸である。小麦は水分11-13%、蛋白質12-13%、脂肪1.5-2.0%、灰分1.5%、デンプン70-72%である。コムギデンプンの一般成分は水分13-14%、蛋白質1-1.5%、脂肪0.2%、灰分0.5%、デンプン83-84%である。

小麦の水溶性蛋白質である小麦アルブミンは、ヒトの唾液や膵液に含まれる澱粉消化酵素のアミラーゼの働きを緩やかにする。そのため食品に含まれる糖質の大部分を占める澱粉の消化吸収を遅らせ、急激な食後血糖値の上昇を緩和にする作用がある。

小麦粒に9%程度含まれる小麦蛋白質には、グリアジン、グルテニン、アルブミン、グロブリンの4種類がある。そのうち大部分はグリアジンとグルテニンの混合物であるグルテンである。glutenは小麦粉から澱粉やアルブミン、グロブリンを洗い落とした後に残る粘弾性のある塊である。グリアジンとグルテニンがほぼ同量で混合したもので、小麦蛋白質の80%を占めている。グルテン蛋白質とも呼ばれる。

現在、化粧品として使用されている水中油型乳化組成物については、乳化状態を簡単に形成するため、合成界面活性剤が配合されている。しかし、合成界面活性剤は、環境上の問題があり、また、皮膚に対する刺激等の悪影響も懸念されることから、天然物由来の界面活性剤を使用することが望まれている。そこで天然物由来の界面活性剤として、小麦、とうもろこし、又は大豆由来の植物性蛋白質の部分加水分解物が利用されている。

一般に、小麦蛋白質の80%は分子量が約200万のglutenによって占められているが、glutenは構成アミノ酸のうち約1/3がグルタミンであるために、グルタミン残基間で形成される水素結合により会合して水不溶性である。しかし、小麦蛋白質を部分加水分解すると、低分子量化するとともに、グルタミン酸残基において脱アミド化が進行してカルボキシル基を生じ、親水性が向上する。このような小麦蛋白質の加水分解物は、陽イオン性の解離基(NH3+)と陰イオン性の解離基(COO-)を併せ持ち、両性界面活性剤としての機能を有する。特に好ましい小麦蛋白質の加水分解物は平均分子量が約5-6万程度のものであるとする報告が見られる。

国民生活センターなどによると、茶のしずく石鹸によるアレルギー症状には顔や眼の回りのかぶれといった皮膚障害のほか、全身のかゆみや呼吸困難など、重篤な症状となるケースも少なくない。兵庫県赤穂市の女性が重体になるなど、急性アレルギー反応(アナフィラキシー)を発症して一時意識不明になった人も複数いるという(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20110714_1.pdf)。

このアレルギー症状については、製品に添加されていた“水解小麦末”が重量比にして0.3%含有されていた。全ての蛋白質は人間にとってアレルゲンになる可能性があるが、中でも小麦蛋白質はアレルゲン性の強いものの一つと考えられている。毎日のように洗顔して、“加水分解小麦”が少しずつではあるが、眼の粘膜、鼻の粘膜、顔の皮膚に付着して体内に入り、アレルギーになったと考えられる。小麦のアレルギーが眼や鼻の粘膜や顔面の皮膚で最初に成立したものであっても、一度小麦アレルギーになるとアレルギー反応は全身で起こり得る。

食物アレルギーは、通常、原因となる物質が入ったものを食べることによって起こるが、洗顔石鹸「茶のしずく」を使っていた人が小麦アレルギーを発症するなど、皮膚や粘膜からの吸収で起こることがある。特に大人になってからの食物アレルギーは、皮膚・粘膜経由のことが少なくなく、治りにくいという。
[読売新聞,第48702号,2011.9.15.]

皮膚・粘膜からの吸収による食物アレルギーの例[読売新聞,第48702号,2011.9.15.]

加水分解小麦(洗顔石鹸) 小麦
ラテックス・フルーツ症候群 バナナ、アボガド、キウイなど
ハンノキ、シラカバ花粉 林檎、桃、梨、梅などバラ科果物、キウイ、ニンジンなど
ブタクサ花粉 ブタクサ花粉
ヨモギ花粉 林檎、キウイ、ニンジンなど

運動誘発性アレルギー

運動誘発性のアレルギーとは、食物アレルギーの反応が、食事の後に運動することによってより強く症状が出てしまう、若しくは食事の後に運動した時にのみアレルギー症状が出てしまうことをいう。小麦の場合、小麦の中の蛋白質が原因(アレルゲン)となる。一般的に、口から摂取した食物の蛋白質は、食べた後、胃や腸の消化酵素で、ペプチドやアミノ酸といった細かい物質にまで十分に分解されてから吸収される。食物蛋白質は、そのままの形で直接体の中には吸収されない。しかし、小麦を食べたあとに運動をすると消化が不十分なままの小麦蛋白質が体に吸収されやすくなる。そのため、そのような小麦成分に対するアレルギーを持つ人が小麦を食べた後に運動すると、アレルギー症状を起こし易くなると考えられる。但し、小麦アレルギーの強い人は、コムギ製品を食べただけで運動をしなくてもアレルギー症状が発現する。また、そういうヒトが小麦を食べたあと運動すると、運動しない時に比べてもっと強いアレルギー反応を起こすようになることを言う。

1)奥田拓道・監修:2006-2007改訂新版 健康・栄養食品事典-機能性食品・特定保健用食品;東洋医学舎,2006
2)化粧品原料基準第二版;薬事日報社,1984

            [065.STR.:2011.9.27.古泉秀夫]