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『森口尚史氏の虚構』

水曜日, 2月 6th, 2013

     魍魎亭主人

iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った心筋細胞を患者に移植したと虚偽の発表をした森口尚史氏(48)の論文を調査していた東京医科歯科大は28日、共闘執筆者の佐藤千史・同大大学院保健衛生学研究科教授(63)を停職2ヵ月の懲戒処分にしたと発表した。研究に係わっていない論文に執筆者として名を連ね、大学の信用を失墜させたと判断した。
また、森口氏が使った海外出張旅費など、不適当とした経費約130万円の返還も佐藤教授に求めた。

同大の調査では、佐藤教授が共同執筆者になった、1996年-今年の論文23本のうち、実際に研究に係わっていなかった論文は20本あった。同大によれば、佐藤教授は森口氏の大学院時代の指導教官だが、iPS細胞に関する専門知識が無く、論文の内容を検証せずに共同執筆者になったという。

森口氏は東京医科歯科大学医学部の保健衛生学科看護学専攻に入学しており、その資格は看護師である。更に東京医科歯科大学大学院の保健衛生学研究科総合保健看護学専攻の博士前期課程を修了して、修士号(保健)を取得したとされている。

森口氏は『iPS細胞を使った世界初の心筋移植手術を実施した』として新聞の紙面を賑わしたが、森口氏は医師免許を持っていないため、彼自身が心筋移植手術をすることは出来ない。それなのに何故マスコミは話に乗ったのか?。普通、目新しい発表があった場合、その発表者の経歴等を調査するのは当然と思われるが、それをしなかったということなのだろうか。

iPS細胞の研究がノーベル賞の候補になった。更に有力だ等という話を聞いて、その気になったとしたら相当の度胸である。心筋移植手術に成功したというのであれば、当然その恩恵を受けた患者が居なければならないし、手術が成功し患者が治癒したなら、患者の記者会見も求められる。まさか記者会見に出席する偽物の患者を用意する等ということでは無いと思うが、嘘をつき続けることは難しかったはずだ。

一体全体この様に危うい綱渡りを何のためにしたのか、当人の説明を聞いてみたいところである。医師の世界で仕事をしているうちに、自分の実力を示したい。自分は出来る男であるということを知らしめたいと言う考え方に凝り固まり、自己催眠にかかってしまったということか。

それにしても彼の虚偽の発表に簡単に乗せられてしまったマスコミの世界というのも、意外と脆い構造をしていることに驚かされる。今迄も幾度かのお祭り騒ぎの後、あれは間違いだったということが繰り返されているが、祭りの後で反省されても何の役にも立たない。
今回の場合も、マスコミが騒ぎさえしなければ、あの空騒ぎは起こらなかったと思われる。

1)森口氏論文共同執筆者処分「iPS研究」で東京医科歯科大学;読売新聞,第49171号,2012.12.28

    (2013.1.6.)