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「熱ショック蛋白質について」

日曜日, 10月 9th, 2011

KW:語彙解釈・熱ショックタンパク質・熱ショック蛋白質・heat shock protein・ストレス蛋白質・stress protein

Q:熱ショック蛋白質について

A:熱ショック蛋白(質)、heat shock protein:HSP、hsp。ストレス蛋白質;stress proteinともいう。
『細胞又は個体が熱や化学物質に曝されると合成が誘導される一群の蛋白質の総称。原核生物から高等動物まで広く生物界に存在する。』

細胞や個体が平常温度より5-10℃程度高い温度変化を急激に受けた時、合成が誘導される蛋白質群の総称である。HSPの合成は、熱ショックの他、様々な化学物質-電子伝達系の阻害剤、遷移金属、SH試薬、ethanolなどによっても誘導される。そのためHSPはストレス蛋白質とも呼ばれている。

HSP群は、原核生物から高等真核生物に至るまで広く生物界に存在する。真核生物では、HSP90、HSP70、ユビキチン(ubiquitine)及びHSP26などの低分子量HSP群が代表的HSPであり、それぞれのアミノ酸配列は進化の過程でよく保存されている。

HSPの合成は、転写と翻訳の両段階で制御されているが、特に転写開始機構がよく解析されている。真核生物の場合、全てのHSP遺伝子のプロモーターの上流には特異的な共通塩基配列が存在し、この配列に特異的転写開始因子が結合すると転写が開始される。真核生物のHSPの多くは多重遺伝子族を形成している。例えばヒトHSP70の場合少なくとも約10種のHSP70遺伝子が存在する。それらの中には、構成的に合成されており熱ショックでは誘導されず、そのアミノ酸配列も熱ショック誘導性のものとかなり違っているものもある。HSPの機能は多岐にわたっている。HSP70は変性蛋白質(伸びたポリペプチド鎖)に結合し、その会合沈殿を防ぐ。ATP依存的に結合蛋白質を遊離する。小胞体にあるGRP78(Bip)、GRP94、ミトコンドリアにあるHSP75などは同族蛋白質である。HSP60(Gro-EL)はフォールディング中間体モルテングロビュール構造を認識し結合する(→蛋白質のフォールディング)。これらの非完全構造体の蛋白質に結合し、その会合沈殿を抑え、フォールディングを補佐する蛋白質を分子シャペロンと総称する。

その他、『高等動物では、比較的高分子量のHSP90ファミリーとHSP70ファミリー、低分子量のHSP27ファミリーが存在する。各遺伝子のプロモータ部分には熱ショックエレメント(HSE)という特異的な塩基配列があり、ここに転写因子である熱ショック因子(HSF)が結合すると転写が開始される。ストレス誘導されたHSPを蓄積した細胞は再度のストレスに耐性を持つ。また、熱ショック蛋白質は、細胞内で新生ポリペプチドの折りたたみや輸送、変性しかかった蛋白質の再折りたたみを助け、分子シャペロンとも呼称されている。』とする報告がされている。

また、『グルコースの欠乏により発現が増大するグルコース調節蛋白は、熱ショック蛋白と相同性が高い。この蛋白質自体、酵素活性や細胞構造を形成する働きは持っていない。他の蛋白質と複合体を形成し、その蛋白質の折りたたみ、アセンブリー(assembly)、構造維持を助ける介添役(シャペロニン;chaperonine)としての機能を持つ。』とする報告もある。

熱ショック蛋白質のについて、『熱カロリーの刺激によって発生する熱ショック蛋白質の生体反応を利用して、体力の向上、抵抗力の調整に役立てようとする』手法である。HSPの細胞修復力を利用して、治療に利用しようとする考え方である。

1)最新医学大辞典 第3版;医歯薬出版株式会社,2006
2)今堀和友・他監修:生化学辞典 第3版;東京化学同人,2002
3)伊藤正男・他総編集:医学書院医学大辞典 第2版;医学書院,2009

 

   [615.8.HSP:2011.9.2.古泉秀夫]