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「持参薬の再利用について」

木曜日, 5月 26th, 2011

 

KW:法律・規則・持参薬・再利用・DPC・Diagnosis Procedure Combination・診断群分類・診断群分類包括評価

Q:持参薬の再利用について。昔は薬剤師法の「処方箋に基づき調剤する」に抵触していると言われていましたが、現在では法的問題はクリアされているんでしょうか。自分なりには持参薬を鑑別し持参薬処方箋(または指示書)を医師が記載する事により勝手に問題無しと考えていたんですがこの辺の解釈で何か情報がありましたらお教え頂けないでしょうか。

A:持参薬の取扱について、従来は、患者の薬の保存状況の悪さから吸湿等による薬の安定性に疑問がある。更には薬袋等から取り出した薬を乱雑に保管しているため、有効期限等を確認することが出来ないということで、入院期間中に患者の持参した薬は原則として使用しないということにしていた。また、従来はPTP包装の耳等に記載されている薬品名は切り離して調剤するということが行われており、薬の判定が困難という理由もあったと記憶している。但し、その持参薬も自院の医師が外来で処方していた薬剤については、医師の依頼により整理し、服用可能と判断した薬について、薬品名をメモし、病棟に返戻していたが、この行為は調剤とは言えないのではないか。

また、外来における治療が期待する効果を上げることが出来ず入院したということであれば、入院を指示した医師が当然診察しており、主治医の了解無しに患者の持参した薬を服用させるということはあり得ず、飽く迄も医師の方針が優先される。

現在、見受けられる「患者持参薬」の取扱いは、DPC(Diagnosis Procedure Combination;診断群分類)の導入に伴い、入院医療費の定額支払い制度が導入される「診断群分類包括評価」に加わる病院が増加したことによる結果ではないかと思われる。

診断群分類包括評価は、疾病(診断群分類)毎に決められた定額(包括)で診療報酬を支払う仕組みである。従来、診療報酬は診療行為毎に支払われるため、回数に応じて医療費が増えていくが、DPCは包括性のため、医療費の抑制に効果があるとされている。

診療報酬の支払いが包括性であるため、新たに薬を処方することは病院側の負担となる。そのため患者「持参薬」がある場合、可能な限りそれを使用したいという考えは、病院経営上の問題である。その意味では「持参薬」の取扱ルールは病院として組織決定することが必要であり、医師から“持参薬使用指示書”を薬剤部宛に提出することは、処方医の意志を薬剤師に伝達する上からも当然のことである。

なお、「持参薬」の取扱について、以下の文書が出されており、法的拘束力はないとしても、病院薬剤師の業務の規範と捉えられる可能性は存在する。また、持参薬は飽く迄患者の私有財産であり、有効期限切れ等の不要薬といえども患者の承諾無しに廃棄することは問題となるため、注意することが必要である。

1)白神 誠・他監修:医薬実務用語集 第16版;薬事日報社,2007

                                                              平成17年1月31日

薬剤部長 殿

                                                        社団法人日本病院薬剤師会
                                                                会長 全田 浩
                                                    リスクマネジメント特別委員会
                                                                委員長 土屋 文人

                  入院時患者持参薬に関する薬剤師の対応について

日本病院薬剤師会では、かねてより全ての入院患者に対して、薬剤管理指導業務を実施するよう提言してまいりました。また、入院時に患者が持参した薬(持参薬)への対応については、平成5 年9 月11 日に薬剤業務委員会が発表致しました「病院薬剤師のための業務チェックリスト」 の中でも提示が行われております。

今般、持参薬が関連した医療事故が発生したことに鑑み、各医療機関においては以下に示す点に十分留意し、持参薬に関して薬剤師が患者安全確保に適切に関与されるよう徹底願います。

1.院内の安全管理委員会等、貴院における医療安全に関する部署等と連携して、持参薬の使用について医療機関の方針を明確にするとともに、持参薬使用時の管理方法に関する運用手順の決定等、持参薬がある場合には、薬剤師の関与を伴った患者安全を図るための仕組みを構築するよう病院に強く働きかけを行われたい。
(医療機関によっては診療科あるいは病棟単位で使用に関する対応が異なる場合もあることが考えられるので、そのような場合には特に留意されたい)。
尚、持参薬を使用しない場合には、患者あるいはその家族に対して当該持参薬を使用しない理由等について、医療機関側が十分な説明を行い、理解を得ることが必要と思われるので、その点にも留意されたい。

2.貴院で持参薬を使用する場合は、薬剤管理指導業務の実施の有無に拘わらず、新規入院患者の持参薬については必ず薬剤師が関与するように徹底されたい。
尚、通常業務時間以外(日当直時を含む)に入院した患者の持参薬については、通常業務時間帯で可能な限り早期に関与するよう留意されたい。

<参考> 病院薬剤師のための業務チェックリスト

3. 患者持参薬の管理

*持参薬への対応の仕方が確立している
*持参薬について薬剤師が鑑別し、その情報を医師等に提供している
*持参薬が採用医薬品でないときは、同一成分又は同効薬等についての情報を提供している

<持参薬について薬剤師が関与する場合の例>

・持参薬の識別(自院採用薬との対比)
→持参薬を処方した医療機関、調剤を行った薬局に確認することが望ましい
・患者への情報提供(持参薬がなくなって自院での処方に切り替えた場合には特に注意)
→従来服用(使用)していた薬剤との関係も含めて情報提供を行うことが必要
・入院時に治療計画等の説明を行う時点で同席し、持参薬に関する情報を共有する
→同じ医療チームにおいて共通認識をもつため、入院当初に持参薬について確認を行うことが望ましい
・ハイリスク薬については看護師への情報提供も重ねて行うことが望ましい
→抗悪性腫瘍剤、糖尿病用薬、ジギタリス製剤、ワーファリンの他、リウマトレックス等特殊な用法の医薬品についても使用方法を含め看護師へ情報提供を行う
・退院時服薬指導に際しては、入院期間中に投与された薬剤と持参薬との関係についても情報提供を行うことが重要である
→退院時処方については逆持参薬になることから、特に入院中に同一成分薬あるいは同種薬に切り替えを行った場合には退院時の情報提供にも工夫が必要である
・薬剤師不在時の持参薬への対応
→夜間の場合は翌日、土日の場合は月曜日、祝日の場合は翌日に薬剤師が確認を行う

<持参薬に薬剤師が関与したことによりリスクが回避された例>

・持参薬の中には現在は使用中でない医薬品が含まれている場合がある
→「持参薬」=「現在使用している医薬品」と判断することは危険が伴う
・薬袋は患者が入れ替えを行っている場合がある
→薬袋記載事項を鵜呑みにすることは危険が伴う(薬袋記載の用法が中にある薬剤の用法とは限らない)
→外観類似(シートの色が同じ)の場合に両者を混同して薬袋に入れている場合がある
→薬袋記載の調剤日が異なる薬袋であっても、処方は同日ということもある
・紹介状やお薬手帳に記載されている量と患者が服用している量が異なる場合がある
→量については確認が必要
・持参薬に複数の医療機関から同一医薬品あるいは同一成分薬(後発品)が処方されていた
→一方の医療機関は院内処方であったため、保険薬局による重複チェックが不能であった
・紹介状に記載されている医薬品名と持参した医薬品とが異なっていた(名称類似)
→紹介状記載時や調剤時のどこかの段階でエラーが発生していた
→患者がPTP シートを1錠毎に分割。その中に記載のない医薬品が含まれていた

 

      [615.1.DPC.2011.4.1.古泉秀夫]