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「ウミスズメの毒性」

日曜日, 11月 22nd, 2009

対象物

うみすずめ Lactoria diaphanus(Bloch & Schneider)

調査者

古泉秀夫

分類

63.099.OST

記入日

2009. 11.17.

成分

ハコフグ類は体表粘液中に毒を持っている。ハコフグ毒の発見はクロハコフグ(Ostracion lentiginosus)を狭い水槽に入れておくと、分泌する粘液により一緒に入れておいた他の魚が死ぬという観察がきっかけであると報告されている。ハコフグ毒はハコフグを意味するハワイ語に因んでパフトキシン(pahutoxin)と命名された。毒成分の構造は3-アセトキシパルミチン酸コリンエステルである。この構造は合成品との比較によって確認されている。pahutoxinはシマウミスズメ、ウミスズメなどハコフグ科の全ての魚に含まれていると考えられている。なお、Lactophrys triqueterというハコフグでは、毒の主成分はデアセチルパフトキシン(deacetylpahutoxin)であることが示されており、日本産ハコフグ(O.immaculatus)では、主成分であるpahutoxinとともに副成分として炭素が一つ多いホモパフトキシン(homopahutoxin)も検出されている。

一般的性状

フグ目ハコフグ科コンゴオフグ属。ウミスズメ、海雀。コンゴウフグに似るが、腹部が半透明であることからハッキリ識別出来る。棘は眼前上方の左右に1個ずつ、正中線に1個、腹部左右の隆起縁の後端近くに1個とその前方に2個ある。尾柄は甲羅でなく動ける。背鰭9軟条、臀鰭9軟条。黄褐色。

分布:本州中部以南、印度、太平洋。茨城、島根から紅海、アフリカ、豪州、ポリネシア、ハワイに分布する。

ウミスズメ、海雀

毒性

パフトキシン(pahutoxin:コリンエステル)は強い魚毒性と溶血性を示すが、これは界面活性剤様作用によって説明されている。pahutoxinの構造をみると、疎水部分(脂肪酸)と親水部分(choline)に明確に別れている。界面活性剤と同じ構造をしている。なお、ミナミハコフグ(Ostracion cubicus)の体表粘液からボキシン(boxin)と命名された蛋白毒が精製された。boxinの分子量は18,000で、N末端のアミノ酸は修飾されている。肝臓の毒性を強調する報告もされている。

症状

pahutoxinによる食中毒の主な症状は、筋肉痛で、四肢のしびれ感、筋力低下や痙攣、重症例では呼吸困難、ショックや腎障害が報告されており、死に至ることもあるとする報告がみられる。その他、筋肉痛、起立困難、呼吸困難、急性腎不全、心不全等の報告がみられる。

処置

pahutoxinによる食中毒の具体的な処置に関する報告は確認出来なかった。医師の管理下に対症療法を行う。

但し、

▼*毒性報告中にみられる『強い魚毒性と溶血性を示すが、これは界面活性剤様作用によって説明されている』の記述に基づき、界面活性剤中毒時の処置方法を参照までに以下に紹介する。

▼*少量摂取時はミルク、卵白投与後、対症療法を行うが、大量摂取、誤嚥の際には徹底した集中治療が必要である。

▼*催吐

▼*胃洗浄:生理食塩液10L以上で洗浄する。

▼*吸着剤:吸着容量から考えると、投与する活性炭の量は体内に残っている界面活性剤の量の10倍は必要と考えられる。しかし、実際にはこれだけの量を飲ませることは難しく、まず催吐、胃洗浄により出来るだけ体外に排泄した後に、数10gの粉末活性炭を投与するのが効果的と考えられる。

▼*必要があれば呼吸管理を行う。

事例

食中毒(疑)事件の発生について▼1.事件の探知:平成19年8月29日(水)午前9時10分頃、長崎県離島医療圏組合五島中央病院(五島市吉久木町205)から「ハコフグを食べた患者が入院している」と五島保健所へ電話連絡があり探知した。▼2.概要:五島保健所の調査によると、患者ら(五島市在住)は平成19年8月25日(土)朝から漁を行い、父親はその中のウミスズメと思われるフグ1匹を持ち帰り、筋肉と肝臓をみそ焼きにして食べた。26日朝、漁から帰り腰痛、ミオグロビン尿などの症状を示して五島中央病院の救急外来を受診したが、症状は軽く翌27日には回復した。▼また、26日朝、当日に漁でとった2匹の同様のフグを次男と親類が1匹ずつ分けて持ち帰り、次男は筋肉と肝臓をみそ焼きにして食べたところ、当日、午後6時頃から首筋から肩にかけての筋肉痛の症状を示し、その後、体が重くなり起立困難となった。次男は、翌27日朝から呼吸困難、ミオグロビン尿等の症状が出て、同病院に入院した。次男は、28日午後6時30分頃から心肺停止、急性腎不全など容態が悪化したため心臓マッサージや人工呼吸などの蘇生措置を受けたが、現在、意識不明の重体である。親類は、同様のフグの筋肉のみをみそ焼きにして夫婦で食べて無症であった。▼3.摂食日時及び摂食場所:父親平成19年8月25日(土)午後6時頃。次男平成19年8月26日(日)午前7時頃。▼4.発病年月日及び時刻:父親平成19年8月26日(日)午前7時頃。次男平成19年8月26日(日)午後6時頃。▼5.症状:筋肉痛、起立困難、呼吸困難、急性腎不全、心不全▼6.摂食者数:4名▼7.有症者数:患者数:2名[(男性 66歳・男性40歳入院中)]▼8.原因食品:ウミスズメ(ハコフグ科)(疑)▼9.病因物質:調査中▼10.調査及び検査実施状況:食品は廃棄されており、五島保健所で聞き取り調査を実施している。

備考

ハコフグ(箱河豚)には毒がないと考えていたので、ウミスズメで中毒が起こったと聞いた時には、全く別種の魚だと思っていた。しかし、ウミスズメはフグ目ハコフグ科コンゴオフグ属ということで、ハコフグの一種であり、調べていくうちにハコフグにもpahutoxinという毒があるという報告が見られた。TV放送の“よいこ”の無人島0円生活の中で、浜口がハコフグを油の鍋に放り込んで料理する場面があり、その後美味い美味いと云って喰っているのを見ていたので、ハコフグに毒があるということでは問題だと思ったが、あるいは魚の扱いによって、ハコフグの毒は、影響がない程度になったり影響が出る程度になったりするのではないかと思われた。ハコフグが即死の場合、人に影響する程度にpahutoxinは分泌されないが、捉えてから刺激を与える環境で育てていると、より分泌物が多くなり毒性が強くなるのではないかということである。

文献

1)阿部宗明:原色魚類検索図鑑;(株)北隆館,1982

2)五島保健所生活衛生課食品乳肉衛生班:食中毒(疑)事件の発生について, 2007

3)蒲原稔治:続原色日本魚類図鑑;(株)保育社,1961

4)塩見一雄・他:新訂版海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書店,1997

5)学研の大図鑑-危険・有毒生物-;(株)学習研究社,2003

6)日本中毒学会・編:急性中毒標準診療ガイド;じほう,2008