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「ジギタリスの毒性」□□□□□□□□□□□□□□□□

木曜日, 2月 8th, 2018

対象物□□□□□□□□□□□□□□□□

和名:ジギタリス
学名:Digitalis purpurea L.
英名:Digitalis、foxglove、
分類:オオバコ科(APG体系分類・旧ごまのはぐさ科)ジギタリス属。
別名:キツネノテブクロimage(狐の手袋)。別名:「魔女の指抜き」、「血の付いた男の指」。実芰答利私、実芰答利斯。

成 分□□□□□□□□□□□□□□□□

*ジギトニン(digitonin):ジギタリス葉含まれるステロイドサポニン。加水分解するとジギトゲニン(1分子)とその3位についた糖、グルコース(2分子)、ガラクトース(2分子)、キシロース(1分子)を生じる。3β-OHステロイドと結晶してジギトニドを形成する。
*digitoxin:ジギタリスの乾燥葉から50%-アルコールにより抽出される第二次配糖体である植物心臓毒。LD50:0.18mg/kg(ネコ)。

一般的性状□□□□□□□□□□□□□□□□

*属名は"手袋の指"のラテン語。花冠は古代英語名で妖精の手袋と云われた。欧州南部原産。観賞、薬用に栽培される多年草。茎は根際から数本直立。高さ1m位。綿毛を密生。葉は卵状長楕円形。下葉は柄がある。皺があり裏面は綿毛が覆う。
*地中海沿岸~欧州北部原産である。地中海沿岸を中心に中央アジアから北アフリカ、ヨーロッパに20種あまりが分布する。1・2年草又は多年草のほか、低木もある。観賞用あるいは薬用に世界中で栽培されている。高さ1m前後で分枝はしない。本種の学名はラテン語で「ゆび」を表すdigitusに由来する。これは花の形が指サックに似ているためである。種名のpurpureaは「紫」の意味。園芸種には白やピンクの花色のものがある。西洋では暗く寂れた場所に繁茂し不吉な植物としてのイメージがある植物とされる。生け贄の儀式が行われる夏に花を咲かせることからドルイド達に好まれると言われる。
*開花期:5-7月。白、ピンク、オレンジ、黄、紫。直立した茎の先端に紫紅色から白、ピンクなどの鐘状の花を総状に付ける。長さ30-60cmの花穂を下から順次開く。萼5裂。花色は多様で、内側には、斑点が見られる。茎生葉は互生で、根出葉は叢生となる。葉身は卵状の長楕円形で、根出葉や茎下部の葉は有柄であるが、上部の葉は小さく無柄となる。分枝はなく、1年目はロゼット様の葉を付けるのみである。
*digitalisの葉を温風乾燥したものを原料としてジギトキシン、ジゴキシン、ラナトシドC等の強心配糖体を抽出していたが、今日では化学的に合成される。古代から切り傷や打ち身に対して薬として使われていた。以前は日本薬局方にDigitalis purpurea を基原とする生薬が「ジギタリス」、「ジギタリス末」として医薬品各条に収載されていたが、第14改正日本薬局方第二追補(2005年1月)でともに削除された。

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毒 性□□□□□□□□□□□□□□□□

*有毒・有害部位:全体。
*digitoxin 、gitoxin 等の強心配糖体 。強心配糖体のdigitoxin、ジゴキシンで、特に葉に多く含まれる。全草が有毒。慢性心不全の予防や治療に使用されるdigoxin は、ジギタリスに含まれておらず、同属植物のケジギタリス (Digitalis lanata ) に含まれている。
*全草に猛毒がある。digitoxin 、gitoxin 等の強心配糖体 。強心配糖体のdigitoxinで、特に葉に多く含まれる。全草が有毒。digitalis中毒とも呼ばれる副作用として、不整脈や動悸などの循環器症状、嘔気・嘔吐等の消化器症状、頭痛・眩暈などの神経症状、視野が黄色く映る症状(黄視症)等がある。慢性心不全の予防や治療に使用されるdigoxin は、ジギタリスに含まれておらず、同属植物のケジギタリス (Digitalis lanata)に含まれている。
*致死量:digoxin:10mg以上、ヒト換算経口致死量40錠(0.25mg錠以上)。

症 状□□□□□□□□□□□□□□□□

*digitalis中毒とも呼ばれる副作用としimageて、不整脈や動悸等の循環器症状、嘔気・嘔吐等の消化器症状、頭痛・眩暈などの神経症状、視野が黄色く映る症状(黄視症)等がある。
胃腸障害、嘔吐、下痢、不整脈、頭痛、めまい、重症になると心臓機能が停止して死亡することがある。
*嘔吐、下痢、不整脈、徐脈、頭痛、易疲労性、痙攣、高カリウム血症、眩暈、視覚異常、心停止、死亡。

処 置□□□□□□□□□□□□□□□□

*①胃洗浄、②吸着薬(薬用炭、コレスチラミン等)反復投与、③下剤の反復投与、④輸液、⑤循環管理、⑥対症療法[ジゴキシン中毒:高カリウム血症(カリメート等)、痙攣(diazepam筋注・静注)、徐脈(atropin硫酸塩皮下・筋注・静注)、不整脈(リドカイン静注等)。
*経口的に投与されたdigoxinは、大部分が小腸から吸収されるが、極く微量は粘膜より吸収される。また、digoxinは腸肝循環が6.5%あるとする報告が見られる。

*薬用炭(別名:活性炭):成人:1回40-60gを微温湯200-300mLに懸濁して経口又は経管チューブで投与。反復投与では4-6時間毎に15-20g(0.25-0.5g/kg)を投与。註:必ず下剤を併用する。
*薬用炭は優れた吸着作用を有する。経口での反復投与により腸肝循環する薬毒物や血管内から消化管内へ逆受動拡散する薬毒物等では、静注で投与された物質等でも体内からの除去を高めることが出来る。
*国内未発売であるが、米国ではdigoxin中毒治療剤[digoxin免疫Fab(ヒツジ)]が市販されている。

事 例□□□□□□□□□□□□□□□□

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*78歳の女性が、コンフリーを食べると胃腸の具合が良くなるというのをテレビで見て、隣の庭のdigitalisをコンフリーと間違えて葉3枚を油で炒めて食べた。4時間後から腹痛、嘔吐、下痢が現れ、翌日には著しい徐脈、低血圧となり、次の日、心室細動で死亡した[Kaku et al.日農医誌,1993:42:983-8]。
*44歳の男性は健康管理の一つの方法としてコンフリーやほうれん草の青汁を飲んでいた。散歩の途中でコンフリーの葉を10枚程度採取したが、それがジギタリス葉であった。1978年10月4日ほうれん草と一緒にジュースにして約180mLを飲用。2時間後から吐き気があり入院。徐脈、複視があり、房室ブロックが認められた。脈拍は40/分となり、不整脈が著しく、10月8日死亡した[石月要平・他:食衛誌,1982:23:221-2]

■備 考□□□□□□□□□□□□□□□□

*相互作用:カルシウム拮抗剤との薬物相互作用が報告されている。
*葉がコンフリーと似ているため、誤食による中毒例がある。但し、近年コンフリーにも毒性があるため、摂食は禁止されている。

文 献□□□□□□□□□□□□□□□□

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 II;北隆館,2000
2)佐竹元・監:フィールドベスト図鑑v.16<日本の有毒植物;学研マーケティング,2012
3)川原勝征:毒毒植物図鑑;南方新社,2017
4)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
5)内藤裕史:中毒百科改訂第2版-事例・病態・治療-;南江堂,2001
6)森 博美・他:急性中毒ハンドファイル;医学書院,2011
7)ジゴシン錠・酸・エリキシルインタビューホーム,2016.2(改訂第12版)
8)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル2018;医学書院,2018

 

調査者:古泉秀夫 分類:63-099 記入日:2018.1.16.