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『何をなさっているのか』

金曜日, 4月 1st, 2016

                                                                      魍魎亭主人

戦後発生した我が国における薬害の最初とされているのが『1948年11月に京都市および島根県東部で実施されたジフテリア予防接種において、84名の乳幼児死亡を含んで 1,000人規模の被害を発現した事故』であると云われている。

世界の予防接種史上最大の事件とされているこの薬害は、製造企業が予防接種液の製造過程で無毒化とロットの取扱いを誤り、安全性確保における最後の砦であるはずの国家検定の試験品抜取りに重大な齟齬があったことが、大惨事の原因だったと考えられている。この薬害の御陰で、ワクチンは危険だという潜在的な意識が多くの国民に擦り込まれたのではなかったか。

その意味では、ワクチン及び血液製剤の製造会社である化血研(一般財団法人・化学及び血清療法研究所・熊本市)は、企業として高い倫理観を持って運営されなければならないはずなのに、今回の不祥事は一体何なんだということになる。この様な不正が行われたのは何故なのか、その原因を徹底的に追求し、改善しなければならない。

何故、調製法を変更した時に、届を出さなかったのか。僅かな時間を稼ぐために、届を出さないという判断をしたのだろうが、その結果が会社の存立に係わるような話に発展するとは考えなかったのだろうか。しかもこの変更を外部に隠蔽するために40年にも亘って隠蔽する努力を重ね、あまつさえ、承認通りに製造していると見せかけるために、隠蔽工作を続けていたという。

この実態に対して、誰も止めようとは云わなかったのだろうか。もしこの隠蔽体質が、会社全体の体質になっていたとしたら、とんでもないことだといわざるを得ない。更に今度は、最も取扱に注意を要するボツリヌス毒素の無届け運搬をやっていたという報道がされた。土壌中のボツリヌス菌が作り出すボツリヌス毒素は、自然界で最強の毒とされ、0.1mg超の運搬は届け出ることになっているとされる。0.1mg程度の摂取でも死に至る恐れがあるとされる。それほど危険な毒物を規定を守らずに移動させると云うことは、日常的な管理もいい加減なのではないかと疑われる。厚労省が立ち入りに入ると云っているから、その辺の扱いについても監査するのだろうが、誤魔化そうと思えば誤魔化せるのではないか。

製薬企業がその企業倫理に従い、正しい製品を製造し、販売する。その企業の姿勢を信頼して、我々は薬を患者に提供する。患者は医療関係者を信頼して、出された薬を服用する。それぞれの立場で、患者の病を治療するために総力を挙げる。その基本の流れの中でルールが守られていなかったとすれば、患者志向の思いは中断される。それ以上に何を信頼してその会社が販売する薬を患者に提供すればいいのか。患者の信頼をどうやって取り戻せば良いのかということになる。医療に携わる人間は、高度な倫理観を持つことが求められる。製薬企業に勤める医師、薬剤師であっても、高い倫理観を持っていなくては、医療に携わることは出来ない。医療に係わる全ての企業、人間は、その基本的な所で、高い倫理性を保持することが求められているはずである。

                                                                  (2015.12.28.)