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§蹌々踉々[5]

火曜日, 6月 30th, 2015

                      鬼城竜生

                               『禁忌の解釈』

日本集中治療医学会の専門医研修認定施設である東京女子医大病院で、平成26年2月、小児の人工呼吸中にその児が死亡するという事例があり、死亡原因はプロポフォールによる鎮静が関与したと報道された。添付文書に『投与禁忌』と記載されているにもかかわらず、投与したことが問題だとする論調である。
それに対し学会は理事長名で『理事会声明』を出し、専門家としての医師の裁量を法的に束縛するものではないとされています。しかし、使用に関しては当該薬に関する十分な知識を有し、患者の安全管理が厳格になされなければならないことは言うまでもありません。また、先進諸外国も「禁忌」又は実質的「禁忌」となっている国が多いのですが、いくつかの使用報告の論文が出ており、使用されている実態の存在が推察されます。』としている。
ここで気になるのは『禁忌』に対する理解が些か現実離れしていると言うことである。添付文書の記載内容について、最高裁は『医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全性を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものである。添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことについて特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。』としている。つまり裁量権を行使するなら、「特段の合理的理由」を示さなければならないと言うことである。『禁忌』とは、添付文書上は『禁止』と同意語であると理解して貰わなければ困るのである(呑)。

 

                                  『相互理解』

薬剤師法第24条に「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。」と規定されている。この規定は、薬剤師が医師の書いた処方せんを『鑑査』することによって、患者に安全な薬を提供する根拠になっているものである。それはいいが、最近、Pharmaceutical Intervention(薬学的介入)なる言葉が使われているのに気付いたが、interventionには介入以外に「干渉、仲裁、調停」なる意味も含まれている。処方を書く医師の側からすれば、薬剤師に介入や干渉を受ける筋合いはないということになりはしないか。医療環境は濃密な人間関係で構築されている。そのような中で、相互理解のない一方的な思い入れで、言葉が一人歩きした場合、無用な軋轢を生みはしないかと心配するのである(呑)

 

                                  『人間事故』

「全てのエラーはヒューマンエラーである」というのが、失敗学の提唱者、畑村洋太郎・工学院大学教授の失敗に対する根本的な考え方であるという。病院勤務薬剤師の世界も、日常的に過誤と背中合わせの生活を送っており、過誤を回避するための研修として、嘗て日航のパイロットを講師とした、危機管理の講演会が盛んに行われていた。しかし、最も危機管理に長けていると思われていた日航が、2005年に入ってから事故続きで、2005年3月17日国交省から「事業改善命令」を受け、その5日後にも1日4件の事故を起こし、国交省の特別査察を受けるはめになったという[読売新聞,第46347号,2005.3.29.]。最近、どちらかといえば、精神論を避ける気風があり、全てを機械化に委ねる風潮が見受けられるが、事故防止はどこまで行っても当事者の気構えの問題であり、業務に対応する緊張感がなければ避けられない。仕事に対する真摯な緊張感は、将に精神の問題であるといえるのではないか(呑)。

 

                          『過去の誤飲事例の公開を』

薬剤師が一人しかいない夜間の当直時、急患室から薬剤の誤飲時の処置について、緊急の問い合わせがあったとする。但し一方で運の悪いことに、入院患者に急変が生じ、緊急の注射薬調剤を依頼されるというような状況は、医療の現場では起こりえることである。注射薬調剤は短時間で処理可能であるから、とりあえずそちらを優先するとしても、その時考えていた救急時の対応を記載した図書に、該当した薬の記載がされていない場合、当然頭の中は真っ白になる。添付文書には必ずしもそのような際の処置方法が満足いく程度には記載されていないため、Interview formを見ることになるが、IFにも必ずしも記載されているわけではない。そのような時に、過去の事例を集積したdata-baseがあれば、医療現場では大助かりである。例え全体的に纏められないとしても、企業のホームページに、自社の誤飲時の処置例を公開することは可能ではないか(呑)