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「ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染防御」

木曜日, 4月 30th, 2015
感染症分類

二類感染症[医師は、本症の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からジフテリアが疑われ、かつ、当該の検査方法により、ジフテリア患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。また、医師は、診察した者が本症の臨床的特徴を呈していないが、当該の検査方法により、ジフテリアの無症状病原体保有者と診断した場合には、規定による届出を直ちに行わなければならない]。▼学校保健安全法:第一種感染症に定められており、治癒するまで出席停止。また、以下の場合も出席停止期間となる。▼・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

一般的性状

ジフテリアはグラム陽性桿菌であるコリネバクテリウム属のジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染症である。異染小体を有し、一端が棍棒状に膨大している。鞭毛は無く、芽胞は形成しない。好気性又は通性嫌気性に発育する。培地上の集落の特徴から、ジフテリア菌はgravis(重症)型、intermedius(中間)型、mitis(軽症)型の三つの菌型に分類される。この3菌型は、当初ジフテリアの重症度と関連があると考えられていたが、現在では必ずしも密接な関連はないとされている。

ジフテリア毒素は、分子量約58,000の易熱性蛋白で、分子内に二つのS-S結合を持つ。毒素に一定の処理を加えると抗原性は保持されたまま、毒素活性を消失したものが得られる。これをtoxoidと呼ぶ。

再興感染症。

棲息部位

自然界に広く分布。ヒトが自然宿主(natural host)。

病原性・感染経路

ジフテリア菌の感染によって生じる上気道粘膜疾患であるが、眼臉結膜・中耳・陰部・皮膚等が侵されることもある。感染、増殖した菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡する危険が高くなるが、致命率は平均5-10%とされている。現在我が国ではtoxoid-vaccineの接種により患者は激減し、年間数例が散発的に報告されるだけとなったが、1990年代前半からの旧ソビエト連邦での大流行は、欧州各地を巻き込んだ国際的な問題となった。ジフテリアの重症例では、心筋の障害などにより死亡する。ジフテリアは国際的に予防対策が必要かつ可能な疾患として扱われ、WHO ではExpanded Program on Immunization(EPI)の対象疾患の1つとしてワクチン接種を奨励している。

ジフテリア菌には、外毒素を産生して二類感染症であるジフテリアを起こす菌株と、毒素を産生しない菌株とがある。自然感染はヒトだけに見られる。ジフテリアの場合は菌が産生する毒素が病態形成の主役を演じる。菌は飛沫感染により、多くは上気道粘膜に感染する。患者や無症候性保菌者の咳などにより、飛沫を介して感染する。

潜伏期間:通常1-10日間であり、2-5日が最も多い。初期症状は発熱・咽頭痛・嚥下痛等であり、侵される部位により呼吸器(鼻・咽頭・扁桃・喉頭)ジフテリア、皮膚ジフテリア、無症候性保菌者等に分類される。咽頭・喉頭・鼻腔等に感染、増殖した菌は、白-灰白色の偽膜を形成し、毒素を産生する。

咽頭ジフテリアから喉頭ジフテリアに進展すると、嗄声、犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)、気道狭窄を起こし(真性クループ)、死亡例もある。死亡率は平均5-10%とされている。いずれの場合も菌は血流に入って広がることはなく、感染局所に限局して増殖しながら毒素を産生する。毒素は血中に入って全身に広がり、心・肝・腎・副腎等に障害を起こす。特に鼻咽頭ジフテリアの場合、毒素血症を起こしやすい。小児の喉頭ジフテリアの場合、偽膜が急速に拡大すると気道の閉塞を起こし、呼吸困難に陥り死亡することがあるので、緊急処置として挿管や気管切開による気道確保が必要となる。

感染局所病変の回復後1-6週を経て軟口蓋、眼球筋、下肢筋などの弛緩性麻痺や心筋障害を起こすことがあり、ジフテリア後麻痺といわれる。

治療

治療開始の遅延は、予後に著しい影響を与えるので、臨床的に本症が疑わしい場合には、確定診断を待たずに治療を開始することが必要である。毒素中和目的の抗毒素療法と抗菌療法の併用となる。気道閉塞や心筋炎、神経炎のモニターが必要である。

▼①抗毒素療法:早期に治療開始。早急な毒素中和が必要で、点滴静注が推奨される。ウマ血清のため事前の感受性テストは必須。生理食塩液で1,000倍に希釈し、0.02mL皮内接種。15-20分後に判定する。陰性の場合、まず1mL皮下接種し、異常がなければ残量を接種する。陽性の場合、血管を確保して添付文書に従い急速減感作を行う。国内では供給確保のため国家買い上げで備蓄されている。都道府県に依頼すれば供給される。

▼軽症:5,000-10,000単位。

▼中等症・喉頭ジフテリア:10,000-20,000単位。

▼重症:20,000-50,000単位。数回に分けて筋肉内(皮下)注射又は(点滴)静注する。なお、症状が改善しない場合には5,000-10,000単位追加注射する。

▼②化学療法:エリスロマイシン(EM)かペニシリンG(PCG)のいずれかを用いる。

1)erythromycin lactobionate  1回20-50mg/kg  1日2回12時間毎    点滴静注14日間

エリスロシン点滴静注用500mg(アボット)

2)benzylpenicillin potassium    1回5万単位/kg 1日4回 静注 14日間

注射用ペニシリンGカリウム(Meiji Seika)20万・100万単位

3)erythromycin stearate     1日25-50mg/kg 分4-6 14日間

エリスロシン錠(アボット)100・200mg/錠

▼③一般療法:急性期は絶対安静として、気道狭窄・閉塞と心筋炎への対策(心電図モニターなど)を行う。神経麻痺は頻度が高いが、多くは予後良好である。

▼④合併症に対する治療:喉頭ジフテリアの場合は、気管切開を考慮。

▼⑤接触者対策:vaccine接種歴があれば追加接種。なければエリスロマイシン(EM) 14日間内服。

▼⑥予 防:DPT-IPV 四種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ(セービン株)混合ワクチン)[テトラビック皮下注シリンジ(阪大微研)・クアトロバック皮下注シリンジ(化血研)]:(初回免疫)1回0.5mLずつ3回-3週間以上の間隔で皮下注射。(追加免疫)小児に初回免疫後6ヵ月以上の間隔をおいて0.5mL 1回皮下注射。

▼-参照(米国)-▼

*呼吸器ジフテリアの疑いがある者:培養材料を取ってからジフテリア抗毒素(DAT-ウマ由来)2万-10万単位を筋注(重篤者では静注)(抗生物質と併用)

感染防御

抵抗性:発育至適温度:34-37℃。至適pH:7.0-7.6。培養菌の抵抗性は比較的弱く、58℃-10分、煮沸1分間で死滅し、通常の消毒薬によっても容易に殺滅される。しかし偽膜内の菌は、68℃-1時間でも生存し、暗所では数ヶ月、また唾液や水中などでは、数日~10数日間感染力を保つ。

▼*我が国ではDPT-IPV(四種混合ワクチン)が乳幼児の基礎免疫に用いられ、効果を上げている。

▼*年長児・成人ではワクチンの副作用として2回目接種後5-7日目にアルサス反応や遅延型過敏反応が出現することがある。

滅菌・消毒

*皮膚ジフテリアなどを除き、飛沫感染であるが、患者に使用した器材や患者環境を消毒する。
①床頭台・オーバーテーブル・洗面台:0.2w/v%-第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム;benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤で清拭。消毒用エタノールで清拭。
②床:0.2w/v%-第四級アンモニウム塩(benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤で清拭。
③リネン:熱水洗濯(80℃-10分間)。0.02-0.1%(200-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウムへ30分間浸漬。0.1w/v%-第四級アンモニウム塩(benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤へ30分間浸漬。
④超音波ネブライザーの蛇管や薬液カップ:0.01%(100ppm)-次亜塩素酸ナトリウムへ1時間浸漬。

文献

1)山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002

2)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26(11):1100-1107(1999)

3)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002

4)第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001

5)多賀須幸男・他監修:今日の治療指針;医学書院,2002

6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2015

7)高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第12版;MEDSi,2011

8)小林寛伊・編:改訂消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004

9)山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2014

⑽)高橋元秀・他:ジフテリア;NIID国立感染症研究所,2015

作成者:古泉秀夫・分類:015.11.CO :2003.2.3.・2004.4.12.・2015.4.20.改訂