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『歯牙着色を惹起する薬剤』

木曜日, 4月 30th, 2015

KW:副作用・歯牙着色・歯着色・pigmentation of tooth・色素沈着・テトラサイクリン系・食用色素・煙草タール・細菌性物資・アマルガム・胆色素・先天性ポルフィリン症・鉛・蒼鉛・水銀・ニッケル・歯牙黄染・黄色歯・抗てんかん剤・primidone・マイソリン・carbamazepine・テグレトール錠・clonazepam・ランドセン錠・sodium valproate・デパケン錠・zonisamide・エクセグラン錠・テトラサイクリン・オキシテトラサイクリン・エナメル質減形成・tetracycline・oxytetracycline・demethylchlortetracycline・minocycline・doxycycline・アクロマイシン・レダマイシン・ビブラマイシン錠・ミノマイシン錠・蛍光写真撮影法・蛍光顕微鏡

Q:20歳台前半の患者で著明な歯牙着色を呈している患者がいる。薬剤性を疑っているが、原因薬剤を知りたい。テトラサイクリン系の抗生物質とも考えられるが、20歳台前半の成人にテトラサイクリン系の抗生物質はあまり投与されないのではないか。テトラサイクリン系の薬剤を除外すると他にどのような薬剤が考えられるか。

A:歯の着色(pigmentation of tooth)又は歯牙着色について、次の報告がされている。

歯表面及び歯質内への種々の外来性色素の沈着したもの。

歯表面外来性色素沈着:食用色素、煙草のタール、檳榔子の葉に含まれるカテキン、細菌性物資、銅(緑色)、水銀(黒褐色)等の金属で、アマルガム充填や歯冠補綴物で発現することがある。お歯黒は、タンニン酸第二鉄による着色である。

歯質内外来性色素沈着:新生児溶血症時の胆色素、先天性ポルフィリン症の赤色調着色等の内因性のものと、テトラサイクリン等の抗生物質、鉛、蒼鉛、水銀、ニッケルの重金属等の外因性のものがある。

等の報告がされている。

なお、以前に「カルマバゼピン・バルブロ酸ナトリウム・マイソリン・クロナゼパム・エクセグランを服用中の7歳の男児において、永久歯の黄染が見られた」とする調査依頼に対し、調査した結果は、次記の通りであった。

一般名・商品名(会社名) 添付文書記載事項  

primidone
プリミドン錠(日医工)

クル病、骨軟化症、歯牙形成不全。(血清アルカリフォスファーターゼ値の上昇血清カルシウム・無機リンの低下等) 本剤の副作用として歯牙形成不全はあるが、歯牙黄染の報告例は存在しない。抗てんかん剤について、歯牙黄染の副作用報告例を検索したが、その様な報告例は検索されなかった[大日本回答 1994]

carbamazepine
テグレトール錠
(ノバルティス)

ビタミンD・カルシウム代謝異常(血清カルシウムの低下)  

clonazepam

ランドセン錠 (大日本住友)

 

sodium valproate
デパケン錠
(協和醗酵キリン)

 

zonisamide
エクセグラン錠
(大日本住友)

本剤の副作用として、歯牙黄染は報告されていない[企業回答1994]

黄色歯(yellow tooth)→歯牙が黄色に着色した状態をいう。原因は外因性のものと内因性のものがあり、外因性の着色は歯牙萌出後の歯の表面に色素が付着するためであり、通常は除去できる。内因性の着色は、歯の硬組織に色素が封入されてできるもので、通常除去できない。内因性着色の原因には歯牙形成期に投与されたテトラサイクリン系薬剤、フッ素症、歯牙の黄色形成不全などで起こるが、いずれもエナメル質形成不全を伴う。重症のものは補綴的に処置する。

エナメル質形成不全(enamel hypoplasia)→ 歯の発育中に歯胚に局所的、全身的障害が及ぶことによりエナメル質の形成が阻害される。局所的原因による場合には、その部の歯にのみ変化が現れる。局所的原因としては外傷、炎症があり、全身的原因に因る場合には、同名歯が左右対称的に侵され、歯冠の全体に亙って変化が見られることが多い。全身的原因としては、発育期における栄養障害、発熱、内分泌障害、遺伝等である。

軽症のものではエナメル質に局限性の白斑、小窩、成長線に一致した浅い溝、波状エナメル質、強い場合には小窩が連続したり、溝が深くなる。エナメル質の一部が全く欠落し象牙質が露出していることもある。

歯牙黄色について、テトラサイクリンによる報告例があるが、以下の通り紹介されている。

黄、灰-褐色の歯の脱色が、乳歯及び永久歯の鉱物質強化法の間にテトラサイクリンを投与された子供に観察された。

テトラサイクリン剤が臨床応用され10数年過ぎて最初の知見が行われ、最初の研究は8年間の長期間に化学療法を受け、肝臓に乳腺腫をともなった子供の症例であった。この歯の脱色がテトラサイクリンの沈着によるものだとする証拠は1961年に子供の乳歯のテトラサイクリンによる蛍光線について、解明された。歯から抽出した色素は、UV光で270μの吸収があり、この物質はテトラサイクリン塩酸塩液中のものと一致した。

テトラサイクリンによって脱色した歯は、紫外線で黄色の蛍光を発し、このことは歯の脱色及び胎児溶血性疾患で見られるエナメル質減形成の鑑別診断に価値がある。この様な脱色は、普通妊娠3カ月期間に母親がテトラサイクリン療法を受けた患者で観察された。臍帯の血液中のオキシテトラサイクリン及びクロールテトラサイクリン濃度は、母親の血中濃度の半分であり、胎盤透過性は別として、テトラサイクリンは母乳を通して胎児にもたらされて同じ障害を及ぼしやすい。

テトラサイクリン群は、歯の鉱物質帯にカルシウム複合体として沈着する。

乳歯の石灰化は、体内期の4カ月から誕生後の7カ月間に始まり、生後7-8歳まで続く。鉱物質の精製の地帯は、、生後第1週にテトラサイクリン療法を受けた早熟の幼児では検出不可である。

歯の脱色現象の危険性及びその広がりと全テトラサイクリン投与量の間には、ある相関関係が存在する。歯のエナメル質欠損と形成不全は激しい症例であり、その様な影響を被った歯では、カリエス形成を起こしやすいが、他の報告ではカリエス発症は観察されていない。

体内でテトラサイクリンの影響を受けたことによる歯の脱色は、テトラサイクリンを妊娠3カ月で投与された子供の50%に見られ、全投与量3g以上若しくは10日目以上の療法を行った子供の約3分の1に可視的な歯の変化をもたらした。最近の報告では、体重当り全量として400-1,000mg/kg以上の投薬を受けた子供の37.5%に大きな変化が見られた。
多くの研究報告によればこの点に関しては、種々のテトラサイクリン剤の間で相違がありオキシテトラサイクリンはテトラサイクリンでの場合よりも歯の脱色の生成率は低い。
以上から導き出される結論は、妊娠3カ月後の人にはテトラサイクリン剤による療法を行わない事であり、授乳期にある母親にもこれらの薬剤を与えない事である。同様のことが誕生後から8歳位までの子供にいえる。生命を救うためにテトラサイクリン療法が必要な患者にはオキシテトラサイクリン[oxytetracycline](又は新型のテトラサイクリン群)を投与すべきであり、それらの薬剤についての副作用は判明しているので限定して投与すべきである。

以上の各報告から今回の事例において、テトラサイクリン系の抗生物質の服用の事実を確認する必要がある。

なお、テトラサイクリン系薬剤として、次の薬剤が市販されている。

一般名・商品名(会社名) 添付文書記載事項 その他

tetracycline(hydrochloride)
アクロマイシンVカプセル(ポーラ)

ハイドロオキシアパタイト結合率:3位・永久歯粉末結合率:3位

demethylchlortetracycline hydrochloride
レダマイシンカプセル (ポーラ)

ハイドロオキシアパタイト結合率:1位・永久歯粉末結合率:1位

minocycline hydrochloride
ミノマイシン錠・カプセル (ファイザー)

ハイドロオキシアパタイト結合率:2位・永久歯粉末結合率:2位

doxycycline hydrochloride
ビブラマイシン錠
(ファイザー)

 

*妊婦・授乳婦への投与:妊娠後半期の投与により、胎児に一過性の骨発育不全、歯牙の着色・エナメル質形成不全を起こすことがあり、また、動物実験で胎児毒性が認められているので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

*新生児、乳・幼・小児への投与:歯牙の着色・エナメル質形成不全、また、一過性の骨発育不全を起こすことがあるので、他の薬剤が使用できないか、無効の場合のみ適用考慮

テトラサイクリン系薬剤の着色は大別して次の3種類に分けられるとする報告が見られる。
灰色-褐色:主としてオーレオマイシン
黄 色:テラマイシン、レダマイシン、アクロマイシン
帯 褐 色:黄色が褪色したもの。

着色がテトラサイクリンによるものかどうかの判定は、黄色、帯褐色、灰-褐色などの着色が左右の同名歯に同程度発現することと、母体の妊娠中又は生後にテトラサイクリン系薬剤服用歴があることによるが、詳細は蛍光写真撮影法による。

テトラサイクリン系抗生物質は、化学構造上、母核の1位と12位の位置で2価あるいは3価の金属イオンとキレート結合することが実証されており、このキレーション作用は、テトラサイクリン誘導体の全てに起こる現象である。

歯及び骨などの硬組織は、ハイドロオキシアパタイトが、その無機質の構成成分であり、テトラサイクリンは2価の金属イオンであるCa++とキレート結合する。硬組織形成中はとりわけテトラサイクリンの取り込みが活発で、投与量の多寡に関係なく必ず歯あるいは骨組織に沈着する。

特に歯では、骨と異なって、一度石灰化が進行すると永久的に生体、特に象牙質内に残留する。歯の研磨切片を蛍光顕微鏡で検鏡すると、象牙質の成長線に一致してテトラサイクリンの黄色蛍光条が確認できる。この蛍光条は投与回数に一致して数本から数十本の線条として確認できる。しかし、肉眼的に観察した場合、一様に黄色に見える。一般的には投与量の多いものほど濃度は濃いい。

テトラサイクリンによる着色は、黄色のみならず褐色、暗褐色と変色していることが多いが、これはテトラサイクリンが日光など紫外線あるいは高熱(体温)などにより異性化反応を起こし変色するからである。臨床的には歯の唇面のほうが舌面より濃く、また、歯の崩出時より年齢の高くなるほど着色の程度が濃くなることが知られている。また、連続投与でははなくとも、投与日数だけ象牙質の成長線に沿って沈着する。

各報告から勘案するに今回の事例は、過去に服用したテトラサイクリン系抗生物質による歯牙着色が年齢とともに目立つようになったとも考えられるため、蛍光写真撮影法による確認が必要である。

1)最新医学大辞典 第2版;医歯薬出版株式会社,1996
2)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:抗てんかん剤の副作用-歯牙黄染;FAX.DI-News, No.1124,1995.8.30.
3)アクロマイシンVカプセル添付文書,1997.2.改訂
4)高久 史麿・監修:治療薬マニュアル;医学書院,1997
5)堀岡 正義・編:DI実例集第2集;薬業時報社,1978.p.236
6)杉田 久美子・他:小児に対するテトラサイクリン系抗生物質投与-質疑応答第20集;日本医事新報社,1993.p.304
7)佐藤 誠:テトラサイクリンによる黄染歯の治療法-質疑応答第6集;日本医事新報社,1979.p.330
8)大野 紘八郎:テトラサイクリンによる歯の着色機構について-質疑応答第9集;日本医事新報社,1982.p.77
9)高久史麿・他:治療薬マニュアル;医学書院,1203

*薬剤名・企業名のみ修正

 

[065.615TC:1998.1.16.古泉秀夫・2015.4.16.一部修正]

「ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染防御」

木曜日, 4月 30th, 2015
感染症分類

二類感染症[医師は、本症の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からジフテリアが疑われ、かつ、当該の検査方法により、ジフテリア患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。また、医師は、診察した者が本症の臨床的特徴を呈していないが、当該の検査方法により、ジフテリアの無症状病原体保有者と診断した場合には、規定による届出を直ちに行わなければならない]。▼学校保健安全法:第一種感染症に定められており、治癒するまで出席停止。また、以下の場合も出席停止期間となる。▼・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間。・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

一般的性状

ジフテリアはグラム陽性桿菌であるコリネバクテリウム属のジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染症である。異染小体を有し、一端が棍棒状に膨大している。鞭毛は無く、芽胞は形成しない。好気性又は通性嫌気性に発育する。培地上の集落の特徴から、ジフテリア菌はgravis(重症)型、intermedius(中間)型、mitis(軽症)型の三つの菌型に分類される。この3菌型は、当初ジフテリアの重症度と関連があると考えられていたが、現在では必ずしも密接な関連はないとされている。

ジフテリア毒素は、分子量約58,000の易熱性蛋白で、分子内に二つのS-S結合を持つ。毒素に一定の処理を加えると抗原性は保持されたまま、毒素活性を消失したものが得られる。これをtoxoidと呼ぶ。

再興感染症。

棲息部位

自然界に広く分布。ヒトが自然宿主(natural host)。

病原性・感染経路

ジフテリア菌の感染によって生じる上気道粘膜疾患であるが、眼臉結膜・中耳・陰部・皮膚等が侵されることもある。感染、増殖した菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡する危険が高くなるが、致命率は平均5-10%とされている。現在我が国ではtoxoid-vaccineの接種により患者は激減し、年間数例が散発的に報告されるだけとなったが、1990年代前半からの旧ソビエト連邦での大流行は、欧州各地を巻き込んだ国際的な問題となった。ジフテリアの重症例では、心筋の障害などにより死亡する。ジフテリアは国際的に予防対策が必要かつ可能な疾患として扱われ、WHO ではExpanded Program on Immunization(EPI)の対象疾患の1つとしてワクチン接種を奨励している。

ジフテリア菌には、外毒素を産生して二類感染症であるジフテリアを起こす菌株と、毒素を産生しない菌株とがある。自然感染はヒトだけに見られる。ジフテリアの場合は菌が産生する毒素が病態形成の主役を演じる。菌は飛沫感染により、多くは上気道粘膜に感染する。患者や無症候性保菌者の咳などにより、飛沫を介して感染する。

潜伏期間:通常1-10日間であり、2-5日が最も多い。初期症状は発熱・咽頭痛・嚥下痛等であり、侵される部位により呼吸器(鼻・咽頭・扁桃・喉頭)ジフテリア、皮膚ジフテリア、無症候性保菌者等に分類される。咽頭・喉頭・鼻腔等に感染、増殖した菌は、白-灰白色の偽膜を形成し、毒素を産生する。

咽頭ジフテリアから喉頭ジフテリアに進展すると、嗄声、犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)、気道狭窄を起こし(真性クループ)、死亡例もある。死亡率は平均5-10%とされている。いずれの場合も菌は血流に入って広がることはなく、感染局所に限局して増殖しながら毒素を産生する。毒素は血中に入って全身に広がり、心・肝・腎・副腎等に障害を起こす。特に鼻咽頭ジフテリアの場合、毒素血症を起こしやすい。小児の喉頭ジフテリアの場合、偽膜が急速に拡大すると気道の閉塞を起こし、呼吸困難に陥り死亡することがあるので、緊急処置として挿管や気管切開による気道確保が必要となる。

感染局所病変の回復後1-6週を経て軟口蓋、眼球筋、下肢筋などの弛緩性麻痺や心筋障害を起こすことがあり、ジフテリア後麻痺といわれる。

治療

治療開始の遅延は、予後に著しい影響を与えるので、臨床的に本症が疑わしい場合には、確定診断を待たずに治療を開始することが必要である。毒素中和目的の抗毒素療法と抗菌療法の併用となる。気道閉塞や心筋炎、神経炎のモニターが必要である。

▼①抗毒素療法:早期に治療開始。早急な毒素中和が必要で、点滴静注が推奨される。ウマ血清のため事前の感受性テストは必須。生理食塩液で1,000倍に希釈し、0.02mL皮内接種。15-20分後に判定する。陰性の場合、まず1mL皮下接種し、異常がなければ残量を接種する。陽性の場合、血管を確保して添付文書に従い急速減感作を行う。国内では供給確保のため国家買い上げで備蓄されている。都道府県に依頼すれば供給される。

▼軽症:5,000-10,000単位。

▼中等症・喉頭ジフテリア:10,000-20,000単位。

▼重症:20,000-50,000単位。数回に分けて筋肉内(皮下)注射又は(点滴)静注する。なお、症状が改善しない場合には5,000-10,000単位追加注射する。

▼②化学療法:エリスロマイシン(EM)かペニシリンG(PCG)のいずれかを用いる。

1)erythromycin lactobionate  1回20-50mg/kg  1日2回12時間毎    点滴静注14日間

エリスロシン点滴静注用500mg(アボット)

2)benzylpenicillin potassium    1回5万単位/kg 1日4回 静注 14日間

注射用ペニシリンGカリウム(Meiji Seika)20万・100万単位

3)erythromycin stearate     1日25-50mg/kg 分4-6 14日間

エリスロシン錠(アボット)100・200mg/錠

▼③一般療法:急性期は絶対安静として、気道狭窄・閉塞と心筋炎への対策(心電図モニターなど)を行う。神経麻痺は頻度が高いが、多くは予後良好である。

▼④合併症に対する治療:喉頭ジフテリアの場合は、気管切開を考慮。

▼⑤接触者対策:vaccine接種歴があれば追加接種。なければエリスロマイシン(EM) 14日間内服。

▼⑥予 防:DPT-IPV 四種混合ワクチン(沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ(セービン株)混合ワクチン)[テトラビック皮下注シリンジ(阪大微研)・クアトロバック皮下注シリンジ(化血研)]:(初回免疫)1回0.5mLずつ3回-3週間以上の間隔で皮下注射。(追加免疫)小児に初回免疫後6ヵ月以上の間隔をおいて0.5mL 1回皮下注射。

▼-参照(米国)-▼

*呼吸器ジフテリアの疑いがある者:培養材料を取ってからジフテリア抗毒素(DAT-ウマ由来)2万-10万単位を筋注(重篤者では静注)(抗生物質と併用)

感染防御

抵抗性:発育至適温度:34-37℃。至適pH:7.0-7.6。培養菌の抵抗性は比較的弱く、58℃-10分、煮沸1分間で死滅し、通常の消毒薬によっても容易に殺滅される。しかし偽膜内の菌は、68℃-1時間でも生存し、暗所では数ヶ月、また唾液や水中などでは、数日~10数日間感染力を保つ。

▼*我が国ではDPT-IPV(四種混合ワクチン)が乳幼児の基礎免疫に用いられ、効果を上げている。

▼*年長児・成人ではワクチンの副作用として2回目接種後5-7日目にアルサス反応や遅延型過敏反応が出現することがある。

滅菌・消毒

*皮膚ジフテリアなどを除き、飛沫感染であるが、患者に使用した器材や患者環境を消毒する。
①床頭台・オーバーテーブル・洗面台:0.2w/v%-第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム;benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤で清拭。消毒用エタノールで清拭。
②床:0.2w/v%-第四級アンモニウム塩(benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤で清拭。
③リネン:熱水洗濯(80℃-10分間)。0.02-0.1%(200-1000ppm)-次亜塩素酸ナトリウムへ30分間浸漬。0.1w/v%-第四級アンモニウム塩(benzalkonium chloride)又は両性界面活性剤へ30分間浸漬。
④超音波ネブライザーの蛇管や薬液カップ:0.01%(100ppm)-次亜塩素酸ナトリウムへ1時間浸漬。

文献

1)山西弘一・他編:標準微生物学 第8版;医学書院,2002

2)国立国際医療センター薬剤部医薬品情報管理室・編:医薬品情報,26(11):1100-1107(1999)

3)吉田眞一・他編:戸田新細菌学 改訂32版;南山堂,2002

4)第十四改正日本薬局方解説書;広川書店,2001

5)多賀須幸男・他監修:今日の治療指針;医学書院,2002

6)高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2015

7)高久史麿・他監訳:ワシントンマニュアル 第12版;MEDSi,2011

8)小林寛伊・編:改訂消毒と滅菌のガイドライン;へるす出版,2004

9)山口徹・他総編:今日の治療指針;医学書院,2014

⑽)高橋元秀・他:ジフテリア;NIID国立感染症研究所,2015

作成者:古泉秀夫・分類:015.11.CO :2003.2.3.・2004.4.12.・2015.4.20.改訂

「ホトケノザについて」

木曜日, 4月 30th, 2015

KW:植物・雑草・ホトケノザ・仏の座・サンガイグサ・三階草・宝蓋草・接骨草・イリドイド・iridoid

Q:ホトケノザについて

A:ホトケノザは『仏の座』との漢字表記がされる。学名: Lamium amplexicaule L。シソ科オドリコソウ属の一年直立草本、あるいは越年草である。別名:サンガイグサ(三階草)は、茎が段々につくことから。成長した際の高さは10-30cm。四角断面の茎は柔らかく、下部で枝分かれして、先は直立する。
葉は対生で、縁に鈍い鋸歯があり、下部では葉枝を持つ円形、上部では葉枝はなく茎を抱く。花期は3-6月、上部の葉脇に長さ2cmほどの紫で唇形状の花をつける。蕾のままで結実する閉鎖花が混じる。特に街中の空き地や道端では、葉は大形で、殆ど閉鎖花ばかりの個体が増えている。白い花をつけるものもあり、シロバナホトケノザ(Lamium amplexicaule f. albiflorum)と呼ばれる。
漢薬名:宝蓋草(ホウガイソウ)。別名:接骨草(セッコツソウ)、蓮台夏枯(レンダイカゴ)、毛葉夏枯(モウヨウカゴ)、灯竜草(トウリュウソウ)、珍珠蓮(チンシユレン)、仏座、風盞(フウサン)、連銭草、大銅銭七、蝋燭扦草(ロウショクセンソウ)。
image生育地:道端、草地、畑地。
分布:東北、江蘇、浙江、四川、江西、雲南、貴州、広東、江西、福建、湖南、湖北、チベット等。
成分:葉はイリドイド(iridoid)のグルコシドであるラミオシド、ラミオール、ラミイドイポラミイドを含む。新鮮な葉に含まれるラミイドの量は約0.02%である。
本種を食べたとき苦みを感じるとする報告もあるが、その苦味の原因がイリドイド配糖体であるとする報告が見られる。しかし大量に摂取しなければ、体に害はないと云われている。
イリドイドは、二次代謝物の一種として多種多様な植物及び動物にみられ、イソプレンより生合成されるモノテルペンで、多くの場合アルカロイド生合成の中間体である。化学的にはイリドイドは通常酸素などの複素6員環と融合した5員環からなる。イリドミルメクス属 (Iridomyrmex) のアリで防御化学物質として合成されるイリドミルメシンにより化学構造は例証され、はじめて単離されたことからイリドイドは名付けられた。
仏の座の名称の由来は、半円形の2枚の茎葉が茎を囲むようについた形を仏の座す敷物-『蓮華座』に例えた和名である。
本種はアジアやヨーロッパ、北アフリカ等に広く分布する。日本では北海道以外の本州、四国、九州、沖縄に自生する。道端や田畑の畦などによく見られる雑草である。春の七草の一つに「ほとけのざ」があるが、これは別種で、標準和名をコオニタビラコというキク科の草である。仏の座は食用ではないため、注意を要する。
薬効:辛苦(辛みと苦味)、温(冷えの症状を改善)。風を去る、絡を通す、腫れを消す、止痛するの効能がある。筋骨疼痛、四肢の痺れ、打撲傷、瘰癧(ルイレキ:頸部リンパ節が数珠状に腫れる)、手足の痺れを治す。
本種は「春の七草」に選択されている物ではなく、春の七草の仏の座はキク科のコオニタビラコ(小鬼田平子:Lapsana apogonoides Maxim.)のことだとされている。

1)増村征夫:和名の由来で覚える372種-野と里・山と海辺の花ポケット図鑑;新潮社,2014
2)廣田伸七:ミニ雑草図鑑-雑草の見分け方-;全国農村教育協会,2009
3)岩瀬 徹:野外観察ハンドブック-形とくらしの雑草図鑑-見分ける280種;全国農村教育協会,2007
4)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典[4];小学館,1998

            [11.141.AMP:2015.4.8.古泉秀夫 ]