Archive for 2月, 2015

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『半夏生について』

木曜日, 2月 5th, 2015

 

KW:生薬・半夏生・ハンゲショウ・半化粧・カタシログサ・片白草・三白草・サンバクソウ・精油・加水分解性タンニン

Q:生薬として使用されるという半夏生について

A:ハンゲショウ(半夏生)は日本、中国、フィリピンに分布し、暖地の水辺や湿地に自生する多年草である。花が咲く頃上部の葉2-3枚が、白くなるのが特徴で、7月2日(夏至から11日目=半夏生)の頃、葉が半分白く化粧したようになることからこの名が付いたと云われる。全体に臭気がある。茎は直立しあるいは下部が地に伏し、縦に稜が有り、高さ60-100cm、葉は5-15cmのimage長卵形から楕円形、花は長さ10-15cmの穂状花序を作り、多数の白い花をつける。穂は初め下垂するが、開花とともに直立してくる。地下茎は横に這い鬚根をつける。
分類:ドクダミ科ハンゲショウ属。学名:Saururus chinensis(Lour.)Baill。
別名:カタシログサ(片白草)。半化粧。水木通(スイモクツウ)、五路白(ゴロハク)、白水鶏(ハクスイケイ)、水伴深烏(スイハンシンウ)、白面姑(ハクメンコ)、過塘蓮(カトウレン)、三点白(サンテンハク)、水牛草(スイギュウソウ)、水九節蓮(スイキュウセツレン)、一白二白(イチハクニハク)、田三白(デンサンパク)、土玉竹(ドギョクチク)、白黄脚(ハクオウキャク)、五葉白(ゴヨウハク)、白橘朝(ハクキツチョウ)、白花照水蓮(ハクカショウスイレン)、天性草(テンセイソウ)。
生薬名:三白草(サンパクソウ:漢薬名)。
薬用部:全草。
薬効:解毒、利尿、脚気の治療。利尿には乾燥した葉を1日量10-15g、水0.6L、3分の1量まで煎じて3回に分けて服用する。腫れ物には、軽く一握りを水0.4-0.6Lで3分の1量まで煎じた煎じ液で患部を洗う。また、生の葉は少量の食塩を入れてすりつぶしたものを患部に塗布する。
有効成分:全草は精油を含む。本草の臭気は精油で、主成分はメチル-n-ノニルケトンである。茎には加水分解性tannin 1.722%、葉はクエルセチン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、アビクラリン、ヒペリン、ルチン及び加水分解性tannin 0.544%を含む。根茎はアミノ酸、有機酸、糖類及び加水分解性tannin 0.48%を含む。

1)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報,2003
2)上海科学技術出版社・編:中薬大辞典 第2巻;株式会社小学館,1985
3)水野瑞夫・他:くらしの薬草と漢方薬-ハーブ・民間薬・生薬-新日本法規,2014

                                                  [011.1.SAU:2014.12.18.古泉秀夫]

『キンミズヒキについて』

木曜日, 2月 5th, 2015

 

KW:生薬・キンミズヒキ・金水引・金水挽・仙鶴草・龍牙草・竜牙草・救荒本草・Agrimonia pilosa

Q:生薬「キンミズヒキ」の作用について

A:本州、四国、九州、台湾、中国大陸の山谷に広く見られる多年草。陽の当たる道端、山野、丘陵等に自生する。水挽に似た黄色い総状花序の花をつけるので、キンミズヒキ(金水引・金水挽)の名前がある。草丈は30-80cmに直立し、枝分かれする。葉は互生し、羽状複葉。8-9月に黄色い5弁花を穂状に咲かせる。開花期は7~9月、結実期は9~10月。荒地、山の斜面、道端、草地に生える。
処方名:仙鶴草。
異名:竜牙草、施州竜牙草、瓜香草[救荒本草]、黄竜尾、鉄胡峰、金頂竜牙、子母草、毛脚茵、黄竜牙、草竜牙、地椒、黄花草、竜頭草、寸八節、過路黄、毛脚鶏、傑里花、線麻子花、脱力車、刀口薬、大毛薬、地仙草、路辺鶏、毛将軍、鶏爪沙、路辺黄、五蹄風、牛頭草、瀉痢草、黄花仔、異風頸草、子不離母、父子草、毛鶏草、群蘭敗毒草、狼牙草。

image基原:バラ科(Rosaceae)龍牙草(Agrimonia pilosa Ledeb.(キンミズヒキ)の全草を乾燥したもの。キンミズヒキ属。
学名:Agrimonia pilosa Ledeb.var japon(Miq.)Nakai。救荒本草に竜牙草と記載。
生薬名:キンミズヒキ、金水挽、龍牙草(リュウガソウ)。
性味:味は苦、性は涼。
薬用部分:全草。花期の全草。
成分:全草にはagrimonin(アグリモニン)・agrimonin A(C29H19O5)・agrimonin B(C14H19O10)・agrimonin C・エナメル質・ビタミンK1等。
その他、アグリモノリド、tannin(ピロカテコール系tannin、没食子tanninなど)、ステロール、有機酸、フェノール性成分、サポニンなどを含む。flavonoid、isocoumarin。主有効成分はtanninで、主に地下部を用いる。根はtannin8.9%を含み、茎はtannin6.5%を含む。葉はtannin16.4%を含む。茎と葉はその他ルテオリン-7-β-グルコシドとアビゲニン-7-β-グルコシドを含む。水性エキスには利胆(胆汁の流れを良くする)作用もあると云われている。疎毛竜牙草はアグリモールA・B・C・D・Eを含み、マラリア原虫に対して抑制作用を持つ。
西洋医学では未開発で、中医学でも殆ど使用されていないとする報告も見られる。
薬効:根に粘膜収縮作用のあるtanninを含み、粘膜腫脹を取る作用がある。歯茎の出血や腫れ、痛み、口内炎に効果があるとされる。下痢止めにも用いられる。下痢止めとして、その程度に応じて4-20%水煎液を内服する方法もあるが、嘔気が来たり、大量では嘔吐する場合もあるので、外用として使用する方がよい。
効能:歯茎の出血、腫れ、口内炎、下痢。
①咽頭炎、扁桃炎、咽頭ジフテリア、口内炎、舌炎、齲歯、歯齦炎(歯茎の腫れ)、歯槽膿漏、抜歯後の腫れ等に、地下部の10%水溶液を冷やした後、この液で1日3-10回程度うがいする。1回あたり口に含む量は8-10mLでよい。味に違和感がある場合は、1.5倍程度に希釈してもよい。
②急性湿疹、お灸の跡、靴ずれ等には地下部の2-10%水煎液で冷湿布する。
③各種の疱疹、とびひ、水疣には地下部の25%以上の濃い水煎液を水疱を破いて塗布する。
④おでき、汗疹のより(固結)には地下部の20-30%濃厚水煎液で冷湿布する。
⑤創傷では根の5-10%消毒用アルコール冷浸液(局方アルコールに根を浸し、時々振り混ぜて1週間冷暗所に保存、一度漉した液)は、tannin質とアルコールの消毒作用で、優れた治療薬となる。傷口の洗浄には2倍程度に希釈した液を使用する。
救荒草本:実は収穫し、搗いたり磨麺として食べる。4月ごろ新葉をお浸しとして食べる。荒年には種子を搗きあるいは摺り、粉麺として糧物に充てる。

1)海老原昭夫:知っておきたい身近な薬草と毒草;薬事日報,2003
2)伊沢凡人・他:カラー版薬草図鑑;家の光協会,2003
3)上海科学出版社・編:中薬大辞典 第三巻;小学館,1998
4)神戸中医学研究会・訳編:漢薬の臨床応用;医歯薬出版株式会社,1979
5)佐合隆一:救荒雑草-飢えを救った雑草たち-;全国農村教育協会,2012

                                                 

  [011.1.AGR:2015.1.8.古泉秀夫]

『青酸配糖体等の植物毒』

木曜日, 2月 5th, 2015

 

KW:語彙解釈・青酸化合物・cyanogen・青酸配糖体・cyanogenic glycoside・シアン化水素・HCN・ビターアーモンド・amygdalin・キャッサバ・

Q:青酸配糖体等の植物毒について

A:青酸化合物(cyanogen)とは、グルコシダーゼや酸、アルカリで処理すると青酸(HCN)を発生する天然有機化合物の総称である。その分布は広く、バラ科、イネ科、マメ科、キク科、シダ類など約100科2000種類の植物、蛾、ヤスデなどの動物にも存在している。化学構造的には、α-hydroxynitrile(cyanhydrin)類のOHに糖が結合した物が青酸配糖体(cyanogenic glycoside)、脂肪酸がエステル結合した物が青酸脂肪(cyanogenic lipid)に分類される。また、酸や酵素ではHCNを発生しないが、アルカリ処理で微量のHCNの生成が見られる物をプソイド青酸配糖体(pseudo-cyanogenic glycoside)と呼ぶ。
以上の化合物は有毒で、食中毒の原因になる。

image青酸配糖体(cyanogenic glycoside)は、主に植物由来の一群の化合物で有り、加水分解でシアン化水素(HCN)を遊離するので、天然の毒物として注意が必要である。
このグループに属する物としてL-phenylalanine由来の物として、鎮咳生薬、苦扁桃(ビターアーモンド:Prunus amygdalus var.amara:バラ科)の種子、アンズ(Prunus armeniaca)の種子:杏仁、桃(Prunus persica)の種子:桃仁、梅(Prunus mume)の種子などに含まれるアミグダリン(amygdalin)、バクチノキ(Prunus zippeliana)の葉に含まれるプルナシン(prunacin)などが知られる。

青酸配糖体を含む植物組織を潰した場合、同じ植物内の別の細胞にある糖加水分解酵素が配糖体と接触し、加水分解を開始する。amygdalinはβ-グルコシダーゼ型酵素(エムルシン:emulsin)によってprunasin更にはmandelonitrileへと連続的に加水分解される。mandelonitrileはベンズアルデヒドのシアノヒドリン体である。mandelonitrileの成分はベンズアルデヒドと有毒なHCNに別の酵素なよって加水分解される。ビターアーモンドの果実仁はamygdalinと加水分解酵素を含んでおり、摂取すると非常に危険である。一方スウィートアーモンド(Prunus amygdalus var.ulcis)の果実仁は無毒である。これは酵素を含むものの青酸配糖体を含まないからである。

amygdalinそのものは特に動物に対しては毒性を示さないが、加水分解酵素を一緒に摂取することにより毒性を発現する。毒性はamygdalinの加水分解によっても生成するが、prunasinは天然に存在する青酸配糖体で有り、ブラックチェリー(Prunus serotina)の種子、チェリーローレル(Prunus taurocerasus)の種子と葉で見つかっている。

食用植物であるキャッサバ(あるいはタピオカ)(Manihot esculenta:トウダイグサ科) も青酸配糖体であるlinamarinとlotaustralinを生産し、澱粉状の塊根の処理には長時間の加水分解と煮沸によるHCNの放出駆除が必要で有り、その後に食用にする。

image青酸配糖体含有植物

バラ科[梅、杏子、林檎、梨、ビターアーモンドの種子仁]
マメ科[シロツメクサ、アカシア、アオイマメ、カラスノエンドウ]
スイカズラ科[セイヨウニワトコ]
トウダイグサ科[キャッサバ(リナマリン:linamarin)]
イネ科[筍(タキシフィリン:taxiphyllin)、[ソルガム=モロコシ:若芽(タキシフィリン:taxiphyllin)]
アマ科[亜麻種子(linamarin)]

等の植物体には青酸配糖体を含むものがあり、腸内細菌のβ-glucosidaseで分解されると、HCNを遊離する。この酵素は青酸配糖体と共に植物体の中にあるし、サラダで摂取するとレタス、セロリ、茸などにも含まれている。
筍は青酸配糖体を最も高濃度に含むものの一つであるが、他の青酸配糖体と異なり、タキシフィリン(taxiphyllin)は熱に弱く、35-40分の煮沸で分解する。

果物や野菜は、健康的な食事に取って重要であるが、カナダ消費されている果物や野菜の幾つかに少量の天然毒素が含まれている。以下はヒトの健康に有害な影響を及ぼす可能性のあるこうした天然毒性等への曝露を減らすための助言である。
imageシアン化合物を産生する果物や野菜
Stone Fruits(核果):アプリコット、チェリー、桃、梨、プラム、プルーンなどは種子仁に青酸配糖体を含む。果肉には毒性がないが、種子仁を摂食すると青酸配糖体から有害な青酸が生じる。シアン化合物の致死量は0.5~3mg/kg体重である。
◆キャッサバ根及び筍:青酸配糖体はキャッサバ根や筍にも含まれる。これらを摂食する際には、適切な調理が必要である。キャッサバには主にスイートとビターの2種類がある。
スイートキャッサバは、新鮮重量1kg当たり50mg以下のシアン化合物を含むが、ビターキャッサバは50mg以上を含む。ビターキャッサバを摂食する際には、擂り潰して水に漬けるなどの処理が必要である。筍に含まれるシアン化合物は、98℃で20分間茹でれば70%近くのシアンが除去される。
◆アキーフルーツ(Blinghia sapida):ムクロジ科アキー属の果実(ジャマイカ)。未熟なアキーフルーツはhypoglycinと呼ばれる毒素を含み、重大な健康被害をもたらす。この果物は、自然に完熟した物でなければ有毒である。
◆馬鈴薯:ジャガイモは天然に幾つかの糖alkaloidを含み、最も多いのはソラニンとチャコニンである。少量の糖alkaloidはジャガイモの香りの元であるが、量が多いと苦味や口中の灼熱感がある。糖alkaloidは高温の油で揚げても壊れないため、調理では壊れない。天然毒素は、主に皮又は皮の直下に有り、ジャガイモが緑色に変色していた場合、毒素があることを占めす。但し、皮が赤や茶色のジャガイモの場合、外観では緑色の変化が解らないことがある。芽が出たり傷があるジャガイモは摂食しないようにする。ジャガイモの保存は湿気のない冷暗所で行う。
◆ぜんまい(fiddleheads):ゼンマイ科。生又は調理不十分なぜんまいによる中毒の報告がある。ぜんまいの茎又は葉から得られる配糖体としてオスマンダリン(osmundalin)が存在する。酵素分解でosmundalactoneに変化するが、酸で処理するとブテノライド(butenolide)を生成する。ブテノライドには昆虫の摂食阻害活性がある。
◆ニンジン:生の人参を食べたときに、苦味が合ったり石油の臭いがすることがある。これは人参がエチレンの存在下で保存されたことを証明している。エチレンは果物を熟させるためのホルモンで有り、人参に作用すると、風味を損なうので、人参は果物と一緒に保存すべきではない。

1)海老塚 豊・監訳:医薬品天然物化学 原書第2版;南江堂,2004
2)田中治・他編:天然物化学 改訂第6版;南江堂,2002
3)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療 改訂第2版;2001
4)果物や野菜中の天然毒素:食品安全情報No.4;2005.2.16.[カナダ食品検査局Web.サイト
http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/foodfacts/fruvegtoxe.shtml 。原題Natural Toxis in Fruit and Vegetables]
5)食品等の安全性に関する情報:東京都福祉保健局,H17.9.21.

        

[615.8.HCN:古泉秀夫]