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「添付文書を守る風土を創ろう」

水曜日, 6月 18th, 2014

 

魍魎亭主人

東京女子医大病院(東京都新宿区)で2009~13年、人工呼吸中の小児患者への投与が禁止されている鎮静剤「プロポフォール」が、16歳未満の小児患者約60人に使用されていたことが関係者の話でわかった。重篤な症状を起こしたりした例はないという。プロポフォールを巡っては、同病院で首の腫瘍の手術を受けた男児(当時2歳)が2月、集中治療室での人工呼吸中に大量に投与されて死亡。病院側が現在、原因を調べているほか、警視庁も、業務上過失致死容疑で捜査を進めている。[読売新聞,第49693号,2014.6.5.] 。

東京女子医大病院で2月、首の手術を受けた男児(当時2歳)が人工呼吸中の小児への使用が禁じられている鎮静剤を投与され死亡した問題について、同大の高桑雄一・医学部長ら教授3人が5日、東京都内で記者会見した。「異状死であることは明らか」などと語り、理事長や病院長が説明責任を果たすべきだと批判した。
高桑医学部長は、同大学長の了解を得て記者会見を開いたと主張しているが、大学と病院を運営する学校法人側は「私的な会見で法人による発表ではない」とコメントした。[読売新聞,第49694号,2014.6.6.]

1%-ディプリバン注(アストラゼネカ株式会社):本剤1mL中にプロポフォール(propofol)[JAN])10mgを含有する製剤である。
尚、本剤に添加剤として『添加物(1mL中)ダイズ油100mg・濃グリセリン22.5mg・精製卵黄レシチン12mg・エデト酸ナトリウム水和物0.055mg・pH調整剤:適量』を含有する乳濁性注射液。

本剤の添付文書中に『禁忌』として、次の3点が記載されている。

1.本剤又は本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.妊産婦(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
3.小児(集中治療における人工呼吸中の鎮静)(「小児等への投与」の項参照)

効能・効果『全身麻酔の導入及び維持。集中治療における人工呼吸中の鎮静』

小児等への投与

1.低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。
2.集中治療における人工呼吸中の鎮静においては、小児等には投与しないこと。[因果関係は不明であるが、外国において集中治療中の鎮静に使用し、小児等で死亡例が報告されている。]
                            [1%-ディプリバン注添付文書:2012.12.改訂(第17版)]

添付文書の『禁忌』の項に、『集中治療における人工呼吸中の鎮静においては、小児等には投与しないこと。』とする記載がされている。

添付文書中の『禁忌』は、『投与不可』と云うことである。但し、添付文書の記載を無視して、医師が使用した場合、そのことによって特に何等かの処分を受けるわけではない。
但し、添付文書の記載に反して使用し、その結果、万一事故が発生した場合、その使用に“特段の事由”がない限り、医師の責任として追及される。日常診療において『禁忌』を無視して使用することで、何ら問題が起こらなかったとしても、万一死亡事例が発生すれば、医師の責任とされるのでそれなりの覚悟が必要である。

この点については、次の最高裁判例が存在する。

最高裁判例(最高裁第3法廷1月23日判決)

医薬品の添付文書の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者または輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が当該医薬品を使用するにあたって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される

薬は使用方法を間違えれば、人の命に係わる問題に発展する。少なくとも患者の治療に薬を使用する者は、『添付文書の記載事項を順守する』の気概が必要である。医師とは云え患者の“命を粗末に扱う程の裁量権”はない。

                 (2014.6.7.)