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『8vol%-エタノール添加0.1w/v%-塩化ベンザルコニウム液について』

火曜日, 11月 27th, 2012

 

KW:消毒・滅菌・8%・エタノール添加・塩化ベンザルコニウム液・0.1w/v%・クロルヘキシジン液・気管内吸引チューブ・歯科用医療機器・バイオフィルム・Serratia marcecens・Burkholderia cepacia

Q:0.1w/v%-塩化ベンザルコニウム液に8vol%-エタノールを添加する意味

A:塩化ベンザルコニウム液は、安価で使用し易い消毒薬であるが、Serratia marcecensに対して0.1%-塩化ベンザルコニウムは無効であったとする報告が見られる。また、Burkholderia cepaciaについても0.1%-塩化ベンザルコニウムは無効であったとする報告がある。
これらの抵抗性細菌に対する消毒薬として、低濃度エタノール(8、11vol%)を添加した0.1%-塩化ベンザルコニウムを用いた所、10分後おおよそ99.9%以上の菌数減少が見られた。既にクロルヘキシジンと5-10vol%-エタノールを併用すると相乗効果が得られることが判明しているが、塩化ベンザルコニウムとエタノールとの併用でも良好な抗菌効果が得られたとする報告が見られる。
塩化ベンザルコニウムに抵抗性を示すS.marcescens及びB.cepaciaに対して、8vol%濃度
以上のエタノール添加の0.1%-塩化ベンザルコニウムは、良好な抗菌効果を示した。塩化ベンザルコニウムとエタノールとの併用は、臨床現場でも使用価値があると考えられる。
気管内吸引チューブ浸漬用消毒薬として、塩化ベンザルコニウムに8vol%濃度以上のエタノールの添加が勧められる。但し、エタノール濃度が高いと気道粘膜に刺激を与える可能性があるので、毒性の観点からエタノールはできる限り低濃度であることが望ましい。
尚臨床使用において、気管内吸引チューブ浸漬用消毒薬として8vol%-エタノール添加1%-塩化ベンザルコニウムを用いれば、微生物汚染が生じないことが既に判明している。

気管内吸引チューブ(カテーテル)は、滅菌済みの物を使用することが必要であり、滅菌済みのディスポ製品を用いるのが原則である。しかし経済的な理由で、消毒により再使用することが行われる場合もある。この際の消毒法として、0.02-0.05%塩化ベンザルコニウム液やクロルヘキシジン液による浸漬が繁用されているが、Pseudomonas cepacia等のグラム陰性桿菌の一部に対して抗菌力が劣る消毒薬では、結果的に気管内吸引チューブ(カテーテル)の消毒が出来ていないということになる。
消毒用エタノール50mL+0.1%塩化ベンザルコニウム450mL及び消毒用エタノール50mL+0.05%クロルヘキシジン450mL(いずれもエタノール濃度は約8v/v%)の消毒薬を調整し試験した結果、P.cepacia、P.fluorescens等の塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン耐性菌に対し効果を示した。また、添加エタノール量は、約8v/v%であるため、気道粘膜に対する毒性は低いと考えられるとする報告がされている。
気管内吸引チューブを繰り返し頻回使用する場合、その消毒には8v/v%-エタノール含有の塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジンを用いるのがよい。またこれらの消毒薬や吸引チューブは使用開始後24時間で廃棄するのが適当と報告されている。また、吸引チューブ消毒の前後に用いる滅菌精製水は、例え8v/v%-エタノール含有消毒薬で処理したとしても、滅菌精製水の細菌による汚染防止は困難であり、8-12時間毎の廃棄が推奨されるとしている。

その他、歯科用医療器具の消毒目的で、主として第4級アンモニウム塩(0.1w/v%-塩化ベンザルコニウム)に0.5w/v%-亜硝酸ナトリウム及び12vol%-エタノールを添加し、防錆及び微生物混入による汚染防止を目的とした製剤を開発した。P.aeruginosaについては、検出限界まで、3分以上の浸漬時間を要したが、通常の器具の浸漬時間は10分とされており、特に問題とはならない。また、塩化ベンザルコニウム抵抗性菌として試験したA.xylosoxidans subsp.xylosoxidansに対しては、顕著な殺菌効果の差が認められたとする報告がされている。

薬物の抵抗性あるいは耐性について、次の報告が見られる。

第3世代セフェム系を分解する基質拡張型β-lactamaseβ-lactamase(extended-spectrum beta-lactamases:ESBLs)を産生するプラスミド性遺伝子により多剤耐性が拡散したことが欧米で大きな問題になっている。エンテロバクター、セラチア、プロテウス、シトロバクターは本来的にβ-lactamase産生であり、耐性を拡大することもある。

S.marcescensは赤色からピンクの色素を産生することが多く、洗面台などにバイオフィルムを形成していることを目視で観察できる場合がある。バイオフィルムとは、菌体表面に多糖体を主成分とするグリコカリックスやスライム(粘液質)を産生し、これを介して凝集する。バイオフィルムを形成した細菌は、消毒薬に抵抗することが知られている。消毒薬が接触している表面の細菌は死滅しているが、接触していない中心部の細菌は生き残っている。四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなど)耐性菌では、菌体内への不透過性あるいは菌体外への排出による耐性が報告されている。

近年、消毒薬の抵抗菌に耐性遺伝子の獲得や耐性関連の遺伝子の変異が認められるなど、遺伝的な背景が感受性株と明らかに違いを呈している。耐性機構には薬剤の排出、不活化、取込み減少などが知られている。特に消毒薬の菌体外への排出は、薬剤特異性がないことから、消毒薬ばかりでなく、抗菌薬を含む多剤耐性菌の出現が考えられる。
緑膿菌、セラチア属、ブドウ球菌、レジオネラなどはバイオフィルムを形成する。バイオフィルム形成により消毒薬及び抗菌薬の標的細胞への到達が阻止され、いずれも殺菌効果が減弱する。

以上の各報告から相対的に考察すると、第4級アンモニウム塩に対して抵抗性を示す細菌の消毒に、8-12vol%-エタノールを添加するのは、細菌側の防御機構に対して、エタノールの蛋白質の凝固変性作用等が影響して、防御機構を減弱あるいは破壊することによって、消毒薬の効果が本来の機能を発揮したものと考えられる。従って臨床現場で使用した医療用具の消毒には、8-12vol%-エタノール添加消毒薬の使用が推奨される。
但し、気管内吸引チューブ等、使用することによって患者に感染の危険が考えられる場合、医原性感染を回避する意味からもdisposable製品を使用すべきである。

1)諏訪雅宣・他:低濃度エタノールを添加した塩化ベンザルコニウムの殺菌効果;医学と薬学,50(2):179-181(2003)
2)尾家重治・他:気管内吸引チューブの微生物汚染とその対策;日環感,8(1):15-18(1993)
3)和田英己・他:「インスベン