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『O-157感染症』

火曜日, 10月 23rd, 2012

       魍魎亭主人

もし細菌が眼に見える大きさであるとすれば、人はまともに歩くことが出来ない。眼に見えないから人は歩いていられるので、細菌はそこら中にいる。最も細菌の全てが病原性を持つ訳ではないが、油断は禁物である。

なぜこんなことを書くかというと、“O157食中毒2人死亡”とする記事が出たからである。札幌市周辺の高齢者関連施設で、入所者ら100人以上が食中毒のような症状を訴え、100歳代と80歳代の女性が死亡した。札幌市保健所は、同市西区の食品会社「岩井食品」が製造した白菜の漬物を感染源と断定し、同社を営業禁止処分とした。

保健所によると、患者の便と同社の漬物から検出された腸管出血性大腸菌O157のDNAが一致し、同社の従業員2人からもO157が検出されたという。感染源となったのは、同社が7月28-30日に製造した白菜の漬物「白菜きりづけ」とされ、保健所が採取した3検体のうち2検体からO157が検出された。

製造された白菜の漬物は、高齢者関連施設やスーパー、ホテル、飲食店など北海道内計約50ヵ所に出荷され、少なくとも2ホテルと高齢者関連9施設にの利用者がO157の症状を訴えている。

同社は白菜を殺菌する消毒液の濃度を記録していなかったとされる。2008年に札幌市保健所が実施した製品の抽出検査で、基準を上回る細菌の数値が検出され、保健所の改善指導を受け、2009年1月消毒液の濃度を記録するなどの改善報告書を提出した。しかし、保健所が今月調査したところ、消毒液の濃度を記録した帳簿は見つからなかったという。
保健所などによると改善報告書では、消毒液自体の殺菌力を上げるために、使用する消毒液の濃度を従来より高くした上で、濃度が適正(100-150ppm)に保たれるよう適宜測定して、その数値を記録に残すように改善するなどとされていたと云う。

同社は完全に人の廻りでウロウロしている細菌を甘く見たと云うことである。最近の漬物は、多くの場合、塩の量を減らした甘塩になっている。この程度の塩の濃度では、細菌を殺す効果は見られない。また消毒薬による消毒は、その使用濃度を適正にすると共に、時間・温度が重要になる。その基本的なところを見過ごしにしたのでは、細菌による汚染は防げない。更に従業員からもO157が検出されたという。食品を扱う職場では、下痢をしている職員がでた場合、休ませるか、製造工程から外す配慮が必要である。

更に最近は食品の流通範囲が広くなっており、被害も広範囲にわたる。つまり被害は拡大する。従って事故が発生した場合、その補償の範囲は広範囲に及ぶ。下手をすれば会社存亡の危機に陥る。消毒薬の使用を適正に行う程度の経費を勿体ないと思ったばかりに手痛いしっぺ返しを受けたと云うことである。相手は眼に見えない生物で有り、人の体内にさえ生存している。

食品を取り扱う人達は、常に身近なところに細菌が居ることを理解しておくべきである。

1)読売新聞,第49036号,2012.8.15.
2)読売新聞,第49037号,2012.8.16.
    

(2012.9.9.)