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『懲りませんね「副作用少ない抗がん剤」』

日曜日, 8月 19th, 2012

     魍魎亭主人

『探究』   常識覆す遺伝子発見-副作用少ない抗がん剤 立役者 間野 博行氏52(自治医科大学教授、東京大特任教授)という大見出しの記事が読売新聞[第48960号,2012.5.31.]に掲載された。

肺がん患者の末期でリンパ節にまで転移した男性患者が臨床治験中の新しい抗がん剤「クリゾチニブ」を飲んだところ、がん細胞はほぼ消失、一人で外出できるまでに回復。この画期的な抗がん剤誕生の立役者が間野氏で、臓器に出来る固形がんに対し、有効で副作用の少ない抗がん剤の開発に道を開いた。クリゾチニブは分子標的薬である。異常遺伝子から作られ、がん化を引き起こす分子(蛋白質)に狙いを定め、その分子の働きを封じることでがん細胞を抑える薬だとされる。従来の抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞も傷つけて副作用が大きかった。

分子標的薬は正常な細胞に標的となる分子が少なければ副作用が少なくて済むのが特徴。白血病の特効薬とされる抗がん剤「イマチニブ」は白血病の原因となる染色体のねじれで出来る異常遺伝子が作る蛋白質の作用を封じることで、細胞の異常増殖を抑える。固形がんには効き目のある分子標的薬はなかった。白血病の原因のような異常遺伝子は、固形がんにはないというのが医学界の常識だった。間野氏は日本で最も死亡数の多い肺がんの異常遺伝子を調べた結果「EML4-ALK」を発見した。ファイザー製薬がこの発見を基に抗がん剤「クリゾチニブ」を開発。22ヵ国で臨床試験が行われる。国内では2012年3月申請から1年という異例の速さで国から製造・販売が承認された。

副作用が少ないという惹句を見ると、一体全体何との比較で少ないと仰っているのか、甚だしく疑問に感じるのである。

薬の薬理作用は、人にとってプラスとマイナスの両方に発現する。プラスにでれば効果であり、マイナスにでれば副作用である。薬にとってプラスもマイナスも一体のものであり、切れ味が鋭ければ鋭いだけ副作用も重篤なものがでる可能性があると云うことである。

商品名:ザーコリカプセル200・250mg(ファイザー)
一般名:crizotinib
作用機序:クリゾチニブはALK、肝細胞増殖因子受容体(c-Met/HGFR)、及びRecepteur d’Origine Nantais(RON)に対するチロシンキナーゼ阻害剤である。クリゾチニブは、ALKの発がん性変異体であるALK融合蛋白質のチロシンキナーゼ活性を阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制すると考えられている。
本剤の使用に関する注意事項として、添付文書中に以下の記載がされている。

副作用等発現状況の概要

海外第I相試験及び国際共同第II相試験における安全性評価対象例255例中(日本人患者21例を含む)、副作用(臨床検査値異常を含む)の発現症例は、245例(96.1%)であった。その主なものは、悪心136例(53.3%)、視力障害115例(45.1%)、下痢109例(42.7%)、嘔吐101例(39.6%)、便秘69例(27.1%)、末梢性浮腫64例(25.1%)等であった。(承認時)

重大な副作用

1.間質性肺疾患(1.6%):間質性肺疾患があらわれることがあり、死亡に至った症例も報告されているので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2.肝不全、肝機能障害:ALT(GPT)、AST(GOT)、ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害(17.3%)があらわれることがあり、肝不全により死亡に至った症例も報告されているので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、休薬、減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
3.QT間隔延長(1.6%):QT間隔延長があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、休薬、減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
4.血液障害:好中球減少症(7.1%)、白血球減少症(5.1%)、リンパ球減少症(2.4%)、血小板減少症(1.2%)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、休薬又は減量するなど適切な処置を行うこと。

警告

1.本剤の投与にあたっては、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本療法が適切と判断される症例についてのみ実施すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性(特に、間質性肺疾患の初期症状、投与中の注意事項、死亡に至った例があること等に関する情報)を十分説明し、同意を得てから投与すること。
2.本剤の投与により間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った例が報告されているので、初期症状(息切れ、呼吸困難、咳嗽、発熱等)の確認及び胸部CT検査等の実施など、観察を十分に行うこと。異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。また、間質性肺疾患が本剤の投与初期にあらわれ、死亡に至った国内症例があることから、治療初期は入院又はそれに準ずる管理の下で、間質性肺疾患等の重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。
3.本剤の投与により肝不全があらわれ、死亡に至った例が報告されているので、本剤投与開始前及び本剤投与中は定期的(特に投与初期は頻回)に肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。異常が認められた場合には、本剤の投与を中止する等の適切な処置を行うこと。

その他、厚生労働省から本剤の使用に関し次の文書が発出されている。『薬食審査発0330第1号』。

添付文書を見る限り、特段副作用が少ない薬とは考えられない。更に国内では申請から1年という素早い承認の結果を受け、承認条件として『1.国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。』。『2.本剤の投与が、肺癌の診断、化学療法に精通し、本剤のリスク等についても十分に管理できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ行われるよう、製造販売にあたって必要な措置を講じること。』の条件が付けられている。

この時期に、この様な記事がでれば、肺がんで悩んでいる患者は、自分の癌の治療にも使って欲しいと思うだろう。しかし、実際には、現段階では医師なら誰でもが使っていいという薬にはなっていない。極く限定された医療機関、限定された専門医による使用が求められている。

その意味では、広く周知する段階ではないと思われるこの時期に、出す必要がある記事だったのかどうか。crizotinibと同じ肺がんの治療薬である『イレッサ』が、薬害だとして裁判で争われている。同じことを繰り返さないためにも、添付文書の記載事項に従って使用されることを願っている。折角の薬である。大事に育てて戴きたいものである。

1)ザーコリカプセル添付文書,2012.3.

    (2012.6.25.)

『岩煙草なるもの』

日曜日, 8月 19th, 2012

  鬼城竜生

最初にイワタバコを見たのは、御嶽山の参道にある茶店の窓の外、植木鉢に植えられていたものである。但し、花は咲いていなかった。次にイワタバコを見たのは、北鎌倉駅から4-5分のところにある松岡山東慶寺の境内であった。この時も右側の崖一面に密集する葉を見ただけだったが、花は六月にならないと咲かないといわれた。特に六月の初旬から中旬ということで、昨年から岩煙草-001六月になったら花の写真を撮りに行くと決めていた。

6月13日(水曜日)梅雨の晴れ間を狙って北鎌倉を目指した。京浜急行で横浜駅迄行き、横浜駅で横須賀線に乗り換え、北鎌倉駅で下車。駅の右手の改札口、建長寺とは反対側の鎌倉街道側に出る。今回は、朝飯を食っていないので、駅を出て直ぐの所にある蕎麦屋“やも本”で、朝昼兼用の蕎麦を食うことにした。何時も蕎麦屋では天ざるを頼むのだが、天麩羅ネタが切れたということで山かけざる蕎麦を頼んだ。この蕎麦屋で喰うのは二度目だが、この様な観光地にしては、そこそこの蕎麦を食わせていると思うが、驚くほどではないという、微妙な位置を保っている。

所で東慶寺の境内には色々の花が咲いていたが、イワタバコの花も咲いていた。あまり派手な花ではないが、それなりに綺麗な花だと思う。イワタバコはいわたばこ科イワタバコ属の植物である。学名:Conandron ramondioides Sieb.et Zucc.。岩壁に生え、葉が煙草の葉に似ているので岩煙草という。本州から沖縄及び台湾の山地の谷間の湿った岩壁に生える多年草。葉は10-30cm、翼のある柄を持ち数枚を根生、軟らかい。冬は堅く丸まって径1-2cmになって越冬する。花は6-8月、長さ6-12cmの花茎を出し散形花序、花冠は1.5cm位。葉は苦味強く胃腸薬に用いる。萼は5深裂、雄蕊5。別名:イワヂシャ(岩萵苣)。

イワタバコの花を撮りに行った東慶寺で、珍しい花を紹介された。本堂の裏の岩壁に咲いている花で、普段は眼に触れることがないものだが、この時期だけ本堂の回廊に泥除岩煙草-002けを敷き、時間を区切って公開しているようである。その謎の植物の名前は『岩がらみ』である。これも東慶寺での見頃は6月初旬から中旬とされている。

イワガラミは“ゆきのした科イワガラミ属”の植物。学名:Schizophragma hydrangeoides Sieb.et Zucc.、気根で岩に絡みつくことからこの名がある。北海道、本州、四国、九州及び鬱陵島の山地の林内に生える落葉つる性植物。茎から気根を出し、岩や木によじ登る。大きいもので茎8cm、樹皮は厚い。葉は対生、細長い柄を持ち長さ7cm位。花は7月、枝先に平たい集散花序をつける。花弁5、雄蕊10。花序の周囲に装飾花が数個あり、1個の白い萼片が花弁状に広がる。別名:岩絡み。

イワタバコの花を初めて見ることができ、写真を撮ることが出来たが、花のアップの写真は見事に失敗した。カメラを買い換えたのはいいが、そのカメラの使用法に慣れていないという弱点を露呈したと云うことである。何時もそうだが、カメラの説明書はカタカナ語が氾濫しており、読んでいるうちに解らなくなってくるので、使いながら使用法に慣れればいいという対応の仕方をするので、時に訳の解らない操作を指示し、その解消が出来ずにシャッターボタンを押してしまい、ピンボケの写真が出来上がる。今回のイワタバコもそういうことで、ピントがずれていた。岩絡みの花については、岩絡みそのものを初めて見たため、小型カメラで写すためにはどう処理すればいいのか迷っているうちに、行列につれて押し出されてしまった。

東慶寺の門前にある喫茶吉野で珈琲を飲み、しばらく休憩した後、近くにある福源山明月院に寄ることにした。ここは紫陽花の花で有名なお寺で、先日もテレビで青いアジサイの色に明月岩煙草-003岩煙草-004院ブルーというのがあると紹介していたが、今回はまだ少し速すぎたようである。後2-3日過ぎればいい色になると思われた。

自然相手の写真は、しみじみ難しいと思わされるが、単発で絶好のタイミングを選ぶのは至難のことなのかもしれない。まあ、行った時にドンピシャで喜んでいる当たりが素人のいいところかもしれない。

所で今回の総歩行数、残念ながら8,828歩で、一万歩は超えなかった。

1)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 I;北?館,2003
2)牧野富太郎: 原色牧野日本植物図鑑 II;北?館,2000

         (2012.6.23.)

『若宮八幡宮』

日曜日, 8月 19th, 2012

         鬼城竜生

川崎駅から大師線に乗り換え、大師駅で降りる場合、川崎大師にお参りに行くことが目的であるが、今回は、行き先が違った。とはいえ、今迄何回か川崎大師に出かけていたが、大師駅の直ぐ前に神社があるなんてことは全く気付かずにいた。大師駅から川崎大師までの道を地図で辿っていた時に、駅の直ぐ近くに神社の記号が見えたので調べてみたら『若宮八幡宮』という名若宮八幡-02前に行きあった。

神社で頂戴した由緒書きによると、若宮八幡宮の御祭神は仁徳天皇(大鷦鷯尊:おほさざきのみこと)されている。大師河原の総鎮守(大師地区に存在する水神社、川中島神明神社、塩浜神明神社、汐留稲荷神社、日の出厳島神社、田町稲荷神社、田町厳島神社)。八幡塚六郷神社(大田区東六郷。御祭神:応神天皇)の氏子達が大師河原干拓のために移り住み、守護神として祀ったのが若宮八幡だと説明している。八幡様(応神天皇)の若宮様(仁徳天皇)が御祭神なので“若宮八幡”という名前が付けられたという。

仁徳天皇は淀川の治水工事を完成させたことから干拓事業の守護神として崇められていることから、祀られたもので、多摩川の洪水に悩まされていた大師河原の人達の心からの願いが込められたもので、また、仁徳天皇の御製「民の竈を賑わいにけり」にあやかる意味もあるのではないかとされている。創建年代については明白ではないが、『小田原衆所領役帳』に永禄二年(1559年)に朱印地三石と記されていることが初見されるという。

源頼朝が、鎌倉攻略のとき、この地に陣を張り勝利し、その御礼に鶴岡八幡宮を分祀した八幡塚六郷神社を分祀したのがこの神社だとする紹介もされている。例祭日は8月の第一土曜日、第一日曜日又は第二日曜日とされているが、どっちかに決めといてくれないと氏子以外の参詣者はお祭りを外すことになってしまう。

同じ敷地内にあるのが“金山神社”で、御祭神は金山比古神、金山比売神で、俗称“かなまら様”と呼ばれるとされており、鍛冶屋と性の神様とされている。金山神社は、明治中期まで京浜急行電鉄・川崎大師駅前にあったという。京浜電気鉄道(現:京浜急行電鉄)が当時終着駅だった大師駅に折返し用のループ線施設を建設する際、同位置に金山神社が存在していたため、神社ごと現在の若宮八幡宮境内に遷された。

金山神社の祭神は、鉱山や鍛冶の神である金山比古神(かなやまひこのかみ)と金山比売神(かなやまひめのかみ)の二柱で、「金山(かなやま)」と「金魔羅(かなまら)」の読みが似ていることや、両神若宮八幡-03がイザナミが火の神カグズチを産んだ際に下半身に火傷をし病み苦しんでいるときにその嘔吐物(たぐり)から化生したこと、鍛冶に使う鞴(ふいご)のピストン運動が男女の性交を連想させることなどから、性神としても信仰されている。御神体は金属製の男根であることから、「かなまら様」(金魔羅様)とも呼ばれている。またこの神は鞴祭りの神でもあり、鍛冶職人や金属・金物を扱う商人・企業等により、毎年神前で鞴祭りが行われる。その他、昔の川崎宿の飯盛り女達からはお金を作る神、性病除けの神として信仰されていた等の紹介がされている。現在ではその他、子授け・夫婦和合・性病快癒を願う人々からの信仰を集め、特に子孫繁栄・夫婦和合・性病快癒・安産・下半身の傷病治癒などに霊験があるとされている。境内には多数の男根形が奉納されている。

祭礼には御神体(男根)を模した神輿を担ぎ出し、面掛行列などが行われる。金山神社の社殿は平成十一年に建て替えられているが、建て替えるに当たり鉄をイメージし、外側を鉄板で覆い、黒一色の一辺約3mの正八角形、高さが8mの吹き抜けで凡そ一般的にいう神社とは異なる社殿となっている。内部の床の半分は土で固めた土間として仕切り、正面中央部に鞴と炉を置き、金床埋め込んで鍛冶屋の作業場を再現してあるという。毎年4月第一日曜日に行われる例祭かなまら祭りは、大らかな雰囲気から特に外国人に人気があり「歌麿フェスティバル」として大師の風物詩になっているという。

若宮八幡宮の境内に併祀されている神社として金山神社以外に藤森稲荷神社(御祭神:宇賀之御魂神)、大鷲神社(日本武尊)、厳島神社(市杵島姫神:いちきしまひめのかみ)3社があるが、藤森稲荷神社は明長寺付近に祀られていた稲荷神社で、境内に藤の大木があったことから藤森稲荷と云われていた。商売繁盛、子供の夜泣き、疱瘡にも御利益があり、サンダラボッチに赤い御幣を立てて十一日間御参りをして側の二ヶ領用水に流したという。

大鷲神若宮八幡-04社は熊手市の立つ商売繁盛の神様。亡くなられた後に八尋白智鳥になって飛び去ったという古事記の英雄、日本武尊を祀った神社。物を取り→鳥→鷲の語呂合わせから商売繁盛の神様となった。

厳島神社は田町川岸に祀られていた弁天様で、海海苔漁師達の守護神だった。川崎漁協が昭和61年4月14日に解散したため、神社護持の後継が途絶えるのを恐れた有志が、同年4月16日に若宮八幡宮参集殿2階郷土資料室の中に御遷座した。御神体は伝教大師作と伝えられる大黒天、多聞天を従えた三座形式の弁天様が波のレリーフの上に座っており、十五童子(二体欠損)がその下で戯れ、更に馬、俵を積んだ船、千両箱が飾られているという。

ところでこの神社、10月の第3日曜日に行われる“水鳥祭”も変わった祭だと云えるのではないか。慶安二年(1649年)5月に、大蛇丸底深(だいじゃまるそこふか・大師河原開拓に成功し、名主となった池上太郎右衛門幸広)のもとに、地黄坊樽次(じおうぼうたるつぐ・前橋藩主の酒井忠清の籠臣、医師で儒学者の茨木春朔)が、酒豪を引き連れて、大師河原に乗り込み、三日三晩、酒飲みの強さを競ったという実史にのっとった豪快な酒合戦の物語を、実際にお酒を飲みながら競った様を再現したお祭と紹介されているが、酒飲みには嬉しいお祭りかとも思うが、写真を見る限りあまり参加したくないとも云える。顔に隈取りをするのは勘弁願いたい。最も氏子以外は参加出来ないのかもしれないので、心配することはないか。

若宮八幡宮の由緒書きを見ると神様の世界も世知辛くなっていると思わざるを得ないが、今回、2012年2月2日(木曜日)の御参りは突然思いついて出かけたので、この神社だけで戻ってしまった。従って総歩行数は5,271歩と一万歩には遠く及ばなかった。

          (2012.6.2.)

「どくだみの副作用-肝障害の発現機序」

水曜日, 8月 1st, 2012

KW:副作用・どくだみ・ドクダミ・

「BGについて」

水曜日, 8月 1st, 2012

KW:薬名検索・BG・ブチレングリコール・butylene glycol・ブタンジオール・butanediol・保湿剤・化粧品等原料・107-88-0・接触性皮膚炎

Q:化粧品に配合されているBGについて

A:BGの略号で記載される成分について、合成溶剤、品質保持とする製品説明文書が見られる。ブチレングリコール[butylene glycol=ブタンジオール]。butanediol。別名:ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール。C4H10O2=90.1。butaneの二価アルコールで水酸基の位置により4種類の異性体がある。エチレングリコール系(E.O系)エーテルである。異物のない無色透明の液体。かなりの種類の化粧品に保湿剤として使用されている。CAS番号:107-88-0。

(1)1,4-ブタンジオール[HO(CH2)4OH]。アセチレンとホルムアルデヒドからレッペ反応により得られるブチンジオールを接触還元する。融点19℃、沸点235℃。テトラヒドロフランやγ-ブチロラクトンの原料。
(2)2,3-ブタンジオール[CH3(CHOH)2CH3]。DL、D、L、メソ形の4種類があり、ジアセチルの還元によりD、L形が、trans-2,3-エポキシブタンの加水分解や細菌による醗酵ではメソ形が生成する。
凍結防止剤、浸潤剤、軟化剤に用いられる。脱水によりブタジエンが生成する。

(3)1,2-及び1,3-ブタンジオール。いずれも甘味のある液体で、1個の不斉炭素を持つ。

用途:ポリエステル可塑剤、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、アルキッド樹脂、高沸点溶剤、保湿剤、化粧品等の原料。

その他、接触性皮膚炎の原因となる基剤、保湿剤、防腐剤が挙げられており、基剤では、ラノリン、セタノール、亜硫酸ナトリウム、防腐剤ではパラベンが多数の外用剤に含まれており、接触皮膚炎の頻度も高い。また保湿成分であるプロピレングリコールや1,3ブチレングリコールも稀ではあるが接触皮膚炎の報告が増えている。点眼薬では、基剤のε‐アミノカプロン酸や防腐剤の塩化ベンザルコニウムの報告が多いとする報告も見られる。

1)志田正二・編集代表:化学辞典 普及版;森北出版株式会社,1985
2)厚生労働省:重篤副作用疾患別マニュアル-薬剤による接触皮膚炎;平成22年3月

                                                      [011.1.BG:2012.3.1.古泉秀夫]

「ウツボの毒性について」

水曜日, 8月 1st, 2012

KW:中毒・毒性・ウツボ・毒性・Ciguatera・シガテラ・渦鞭毛藻・Gambierdiscus toxicus・ウズベンモウソウ・シガトキシン・cigauatoxin・マイトトキシン・maitotoxin・マリントキシン・marintoxin

Q:伊豆のウツボ(Gymnothorax Kidako)にシガテラ毒は存在するか。またシガテラ毒の確認方法は

A:本来シガテラ(Ciguatera)はカリブ海でシガ(cigua)と呼ばれるニシキウズガイ科の巻貝(和名:チャウダーガイ、Cittarium pica)に起因する食中毒のことであったが、その後カリブ海で漁獲された魚貝類による食中毒をいうようになり、現在ではカリブ海に限定したものではなく、熱帯及び亜熱帯海域の主として珊瑚礁周辺に棲む魚貝類によって起こる低死亡率の食中毒の総称とされている。
ただし、複数のシガテラ毒素が単離され、構造が明らかにされたことからシガテラ毒素による食中毒と定義付けするとする意見も見られる。
ciguateraは南北回帰線に挟まれた広い海域(カリブ海、太平洋、インド洋)で発生し、世界中で年間2万人を超える人が中毒していると推定されている。日本では南西諸島が中毒海域に当てはまり、沖縄県、奄美大島、南鳥島、小笠原、伊豆七島等での中毒事例が多い。ciguateraを起こす魚貝類は300種又は500種ともいわれるが、毒化には地域差、個体差がある。特に問題になるのは、ウツボ科の毒ウツボ(Gymnothorax javanicus)、カマス科のオニカマス(Sphyraena picuda、毒カマス)、スズキ科のマダラハタ(Epinephelus microdon)、バラハタ(Variola loiti)、フェダイ科のイッテンフエダイ(Lutjanus monostima)、バラフエダイ(Lutjanus bohar)、ニダザイ科のサザナミハギ(Ctenochaetus striatus)を始めとして約20種程度とされており、食物連鎖により毒化する。このうち中毒が多いのはバラフエダイで、変わったところではカンパチやヒラマサでも中毒は起こった事例が報告されている。
有毒部位は肝臓やその他の内臓部だけではなく、筋肉にも毒性があることがあり、ciguatera中毒の多い原因の一つとされている。
ciguatera毒素は渦鞭毛藻(Gambierdiscus toxicus:ウズベンモウソウ)のプランクトンからシガトキシン(cigauatoxin)、マイトトキシン(maitotoxin)として単離され、脂溶性の毒素としてcigauatoxinが、水溶性の毒素としてmaitotoxinが存在する。cigauatoxinは分子内に多くのエーテル結合を有するポリエーテル化合物である。分子式C60H86O19=1,110。毒性は極めて強力でマウス(腹腔内投与)LD50=0.45μg/kgである。cigauatoxinは加熱調理では無毒化できない

ウツボ

標記名 通称名 摂食部位 症状
Lycodontis javanicus moray eel 肝臓 Ciguatera中毒
Gymnothorax javanicus ドクウツボ   Ciguatera中毒
Gymnothorax kiodako ウツボ 内臓以外の身 無毒

原則的にいえば、ウツボ(Gymnothorax kiodako)に関する限りciguatera毒素による毒化は報告されていない。また、ウツボの摂食は関東近県では千葉県沿岸部の一部でも干物としての摂食習慣が報告されている。従って『ウツボ』は無毒であるといえるが、ウツボ料理として一般に提供するということであれば、食習慣のない地域のウツボは、念のためciguatera毒素の検査をすることが無難である。

魚貝類の毒化の特徴、検査法については、以下の報告を参照されたい。

1.Marintoxinの特徴

Marintoxinに関する主な特徴

(1)魚種、棲息地域により毒性が異なる

日本近海には約30種のフグが棲息しているが、フグの種類や棲息場所によって毒力に差がみられる。例えば、岩手県越喜来湾、釜石湾及び宮城県雄勝湾のコモンフグ、ヒガンフグは、他の地域のものと異なり筋肉の毒力が強く、食用が禁止されている。

(2)筋肉、肝臓、卵巣等器官ごとに毒力が異なる

フグは同一種でも、器官ごとに毒力に差がみられる。肝臓、卵巣等内蔵は毒性が強く、全種で食用が禁じられている。食用にできるのは、筋肉については22種、皮は11種、精巣は18種のフグに限定されている。

(3)毒は耐熱性であるものが多い

フグ毒、下痢性貝毒、麻痺性貝毒、最近新聞紙上を賑わせたアオブダイの毒等は耐熱性で、通常の加熱調理では毒は失活しない。また、フグ毒は非水溶性である。

(4)食物連鎖により毒化するものが多い

魚介類の毒化原因は、有毒鞭毛藻類のプランクトンであることが多く、シガテラや下痢性貝毒、麻痺性貝毒はこれにあたる。巻貝のバイの毒は細菌 (Coryneform)が毒化の原因となっている。フグ毒についても、細菌が毒の第一次生産者とする報告が数多くなされている。

2.Marintoxinによる食中毒事件の解明

中毒の原因解明には、患者の臨床症状、喫食調査(魚介類の種およびその部位)、流通経路調査(産地)並びに摂食残品からのMarintoxinの検出が重要である。摂食残品が得られない場合は、流通経路調査により、同一ロットの入手に努め、毒を検出する必要がある。摂食残品や調理残品が得られない場合もあるが、フグ中毒では、患者の吐物、尿からの毒の検出が有効である。

3.診断、治療

Marintoxinの種類によって臨床症状は異なるが、胃腸障害、神経症状、皮膚症状等が主で、シガテラのように、複数の毒が存在する場合は症状も複雑である。下痢、嘔吐を臨床所見とするものについては鑑別診断が困難なため、喫食調査や調理・摂食残品等からの毒の検出が重要となる。
治療法としては胃洗浄が効果的であるが、フグ中毒の場合には、胃洗浄に加えて、利尿薬の投与や人工呼吸が有効とされている。その他のものについても、症状に合わせた治療法が行われている。
Marintoxinは魚介類の特定の器官に存在するので、当該部位をターゲットとして、検査を実施することが重要である。Marintoxinの検査法は、毒抽出液をマウス腹腔内に接種し、定量する方法(マウス試験法)、抽出試料の精製後、蛍光検出器や紫外分光光度計を装着した高速液体クロマトグラフ装置を用いて定量する方法(HPLC法)、HPLCと質量分析計との組合せによる定量法(LC-MS法)がある。しかし、このような検査法では、煩雑な操作と熟練を要し、結果が出るまでかなりの時間と費用が必要である。簡易検査法の研究がされており実用化されたものとして、下痢性貝毒の成分であるオカダ酸群化合物の ELISA法(米国特許取得)、テトロドトキシンのELISA法などがあるとする報告がみられる。

4.予防対策

フグ中毒は、素人調理による有毒部位の摂食や、魚介類販売店・飲食店が客の求めに応じて肝臓等を提供することが原因になることが多い。貝類については、生産地において毒化モニタリング等の実施により、毒化したものが出荷されることのないよう十分な対策が必要で、輸入魚介類の種類と量が共に増加する傾向にあり、当該食品の監視強化が望まれている。

ciguatera毒素については、簡易検査法の研究がされているようであるが、到達段階の詳細は不明である。いずれにしろ素人が出した結論では、安全性の保証にはならないので、専門機関に調査を依頼することが必要である。

1)塩見一雄・他:海洋動物の毒-フグからイソギンチャクまで-;成山堂書店,1997
2)新村壽夫・編:食品衛生学 第2版;愛智出版,2004
3)Anthony T.Tu,:中毒学概論-毒の科学-;薬業時報社,1999
4)奥村 収・他:日本の海水魚;山と渓谷社,1997
5)濱野 米一(大阪府立公衆衛生研究所):魚介類の自然毒による食中毒;公衛研ニュースNo.4,1998年6月25日

その他、関連情報として、次の文書が発出されている。

                                                            食安監発第0413003号
                                                              平成16年4月13日

都道府県
各保健所設置市衛生主管部(局)長 殿
特別区

                                      厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

                麻痺性貝毒による二枚貝等の捕食生物の毒化について

 

貝類の貝毒については、昭和55年7月1日付け環乳第29号「麻痺性貝毒等により毒化した貝類の取扱いについて」及び昭和56年8月11日付け環乳第62号「毒化した貝類の流通防止について」等、従来から様々の対策の推進につき御配慮いただいているところですが、今般、別添のとおり、農林水産省の研究事業(研究事業名:「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」)において、検体として採取された複数のトゲクリガニの肝膵臓から、貝類の規制値である4MU/gを超える麻痺性貝毒が検出され、また、その毒化の機構として、麻痺性貝毒をもつ二枚貝をトゲクリガニが捕食することに起因することが示唆されました。
トゲクリガニに含まれる麻痺性貝毒に起因する食中毒事例はこれまで報告されていませんが、麻痺性貝毒による毒化が発生した海域周辺で採捕される二枚貝等の捕食生物についても注意を要すると考えられることから、今後は、下記のとおり取り扱うようよろしくお願いします。
なお、本件については、農林水産省と協議済みであるので念のため申し添えます。

  記

1 二枚貝等において麻痺性貝毒による毒化が確認された海域を管轄する都道府県等においては、水産部局とも連携し、ヒトの食用に供する二枚貝等の捕食生物について、麻痺性貝毒に係る毒化実態の調査を積極的に実施すること。

2 上記1の調査における麻痺性貝毒の検査法は、昭和55年7月1日付け環乳第30号「貝毒の検査法等について」に定める麻痺性貝毒検査法によること。

3 上記検査の結果、二枚貝等の捕食生物において、その肝膵臓または付属肢筋肉等を含む可食部1g当たりの麻痺性貝毒の毒量が4MU(マウスユニット)を超える場合にあっては、食品衛生法第6条第2号の規定に違反するものとして取り扱うこと。

4 上記検査の結果、食品衛生法違反が判明した場合については、当課あて速やかに連絡されたい。

(別添)
(先端技術を活用した農林水産研究高度化事業報告書要約)
大課題名:現場即応型貝毒検出技術と安全な貝毒モニタリング体制の開発
中課題名:生息環境に基づく二枚貝等の毒化予知技術の高度化
小課題名:二枚貝捕食者における貝毒成分の蓄積とその動態解明
担当機関:中央水産研究所

参考資料1 トゲクリガニ
参考資料2 主な生息地及び流通実態等について

                                                  [63.099.CIG:2005.3.28.古泉秀夫]