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「酒石酸について」

木曜日, 6月 19th, 2008

KW:用法・用量・副作用・L-酒石酸・L-tartaric acid・d-酒石酸・食品添加物・L-(d-)酒石酸

Q:L-酒石酸の1回服用量、1日服用回数、大量ではアシドーシス・腎障害を起こすとされる大量の具体的数値

A:食品添加物として承認されている『L-酒石酸(L-tartaric acid)』について、次の報告がされている。C4H6O6=150.09。本品を乾燥したものはL-酒石酸99.5%以上を含む。本品は無色の結晶又は白色の微細な結晶性の粉末で、臭いが無く、酸味がある。本品1gを溶かす各溶媒の量は水0.75mL、熱湯0.5mL、エタノール3mLである。本品の水溶液は酸性である。

L-(d-)酒石酸は遊離酸として、又はカリウム、カルシウムなどの塩類として、広く植物界に存在し、酒石としても古くから知られている。昭和34年12月28日酒石酸として食品添加物に指定されたが、異性体のdl-酒石酸が分割指定されたことにより昭和39年7月d-酒石酸に改められた。更に食添第5改訂においてL-酒石酸に名称の変更がされた。
[製法]:ブドウ酒製造時に生成する酒石(argol)を原料として製造する。
[用途]:清涼飲料、果汁、キャンデー、ゼリー、ジャム、ソース、冷菓缶詰など各種の食品に酸味料として用いられる。

清涼飲料には0.1-0.2%を添加するが、本品を単独で使用することは少なく、クエン酸、リンゴ酸など他の有機酸と共に用いることが多い。菓子類には約2%まで用いられ、米国では4%まで用いられることもある。JECFA(国際規格)におけるADIは0-30mg/kgとされている。

註:ADI(Acceptable Daily Intake):一日摂取許容量。人が生涯にわたって摂取しても有害な作用を受けないと考えられる、化学物質の1日当たりの最大摂取量。

[代謝]:生体内では不活性であり、イヌ又はウサギに投与した場合74-99%まで、未変化のまま排泄される。ヒトに2gの酒石酸を経口投与すると、未変化のまま尿中に回収されるのは、20%に過ぎず、残余は吸収されず腸内細菌により分解されるものと考えられている。非経口投与法により酒石酸をヒトに投与すると、未変化のまま定量的に排泄されることが示されている。

急性毒性

マウス 経口 LD50 4,360mg/kg
イヌ 経口 LD50 5,000mg/kg

ウサギに酒石酸ナトリウムを平均5,290mg/kg経口投与したところ全数が死亡したが、平均3,680mg/kgの量では全数が生存した。

『L-酒石酸』の医薬品としての情報は、第六改正日本薬局方に以下の記載が見られる。

[応用]本品は清涼止渇薬として応用せられ、1日数回0.3-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混じたリモナーデ散として用いる。但しリモナーデとしては通常本品よりも美味なクエン酸を用い、沸騰散には本品が汎用される。合剤としては本品4.0をシロップ30-50と混じて水で200とし、その1-2食匙ずつを数回に与える。
本品の溶液は、黴菌が生じやすいので保存しない等の記載がされている。

なお、1日数回は3-4回、1回0.3-1.0gの範囲での使用が考えられる。最も『清涼止渇薬』という適応から考えれば、症状発現時に頓用するという使用法も考えられる。

また第八改正日本薬局方では、次の通り解説されている。

[薬効]酒石酸は殆ど吸収されない。腸管を刺激して緩和な緩下作用を現す。また吸収されても生体内で極く僅かしか酸化されず、大部分が尿中にそのまま排泄される。従って血液の酸性を高める作用がある。
[副作用]大量はアシドーシス、腎障害を起こす。
[適用]清涼止渇剤として1日数回0.5-1.0gを散剤とし、また糖及びエッセンスと混ぜてリモナーデ散として用いる。常用量:1日0.5-1g。

Rx クエン酸( citric acid) 又は酒石酸 (tartaric acid)……… 0.5g
  単シロップ……………………………………………………………… 8.0-10.0mL
 精製水……………………………………………………………………… 適量
  全量……………………………………………………………………… 100.0mL

以上1日・分3

酸味は果実に類する爽快な味覚を有し、その4gは大型レモン1個の酸味に相当する。本剤は清涼剤としての効用の他に、口渇、壊血病の予防に用いられる。なお、クエン酸はクレブス回路の触媒的作用において、疲労の回復と予防及び軽減に関与する。

『L-酒石酸』は、現在医薬品としての使用は殆ど行われていないため、アシドーシス、腎障害発現の量-発現例の具体的数値は報告されていない。『L-酒石酸』は経口投与では殆ど吸収されないとされているため、経口摂取によって副作用が発現するとは思われないが、本品によるアシドーシスの発現は、本品の液性が酸性であるということから血液を酸性化させる可能性を推論したものではないかと考えられる。但し、本品の排泄は専ら腎臓に依拠しており、その意味では腎機能低下者では、本品の使用は回避すべきであると考える。また、本品の継続的な摂取については、常用量として指示されている投与量の範囲であれば、特段問題になるような障害は発現しないと思われるが、腎機能が低下している者では、体内濃度の上昇による障害が発現する可能性が考えられるので、長期にわたる摂取は回避すべきである。

1)食品添加物公定書解説書 第8版;廣川書店,2006
2)縮刷 第六改正日本薬局方註解;南江堂,1954
3)第八改正日本薬局方第一部解説書;廣川書店,1971
4)安藤鶴太郎・他:優秀処方とその解説 第37版;南山堂,1996

[035.1.TAR:2008.6.19.]