電脳の向こう側に誰がいるのか?

  魍魎亭主人

 

一般用医薬品のネット販売について、規制改革会議の医療分野の主査である松井道夫委員(松井証券社長)は、販売規制の撤回を叫んでいるが、ネット販売会社の株価の吊り上げを狙ってのことでなければ幸いである。業界紙によると『医療タスクフォース』の松井道夫主査となっているが、この『医療タスクフォース』というのは一体何なのか。『調査特別委員会』ということであれば、その通り書けばいいのであって、恰も先進的な取り組みをやっているという目眩ましの横文字を使う当たりが眉唾なのである。

下請けに仕事を回すのを『アウトソーシング』等という言葉にすり替えることで、さも先進的な経済活動を行っているような幻想を与えてきた。しかし、その結果が2008年の終盤から始まった非正規労働者、派遣労働者の首切りによる減益調整という、最も安易な企業の危機回避の抜け道に利用されているということではないか。

今回、一般用医薬品のネット販売について、どの程度薬について知っている人が論議に参加しているのか。例えば離島や肢体不自由者の購入の便宜性を声高に叫んでいるが、あなた方はコンピュータの向こう側に座っている人間について、どの様な保証を与えようとしているのか。店頭に於ける対面販売であれば、薬剤師あるいは登録販売者であることの確認は可能である。しかし、コンピュータを用いるネットによる発注では、有資格者がそこにいることの保証は全くないということである。

例えばネット販売に場所を提供している会社が、登録資格を厳密に調査し、更に年に何回かの立ち入り調査をするところまで責任を持つことが出来るのか。更に『いわゆる健康食品』といわれるものについては、専らネット販売が主体的な役割を担っていると理解しているが、その品の無さは目に余るものがある。例えばカバカバで検索すると、10万を超える。しかし、カバは『専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト-1.植物由来物等の中に『カバ』は明記されている。更にカバ関連情報として『米FDA、ヨーロッパにおけるKava(Piper methysticum)成分を含有する栄養補助食品による少なくとも25名の重度の肝毒性(肝炎、肝硬変、移植を要する肝不全など)について注意を喚起し、医療専門家に情報提供を要請(12月19日付け)』、『安全性が懸念されているハーブ成分Kava-kava含有製品の販売の自主的停止について:ドイツとスイスにおいて30件の肝障害(1名死亡、4名の肝移植)が報告されているKava-kavaと重度の肝毒性の関連性について英MCAが声明を発表(12月21日付け)』等の情報も見られる。

『専ら医薬品として使用される成分本質』とされるものを無資格者が販売するのは薬事法違反である。そのような違法行為に場所を貸すインターネットの世界が、医薬品という生命関連物質を販売するに相応しい場所とは思えない。

更にもれ承るところによると光線過敏症で薬局に薬を買いに行けない人という話もあったと聞いたが、光線過敏症の方は取り敢えず病院に行って医師の診察を受けると思われる。そうなると医師もネットで診察しろとでもいうのであろうか。長袖のシャツを着て、帽子を被り、なるべく日差しの強くない時間帯に買い物に行く。例え光線過敏症だとはいえ、日常生活は日常生活として送らざるを得ない。病気の人に対して、買い物を代行してあげようなどという制度は存在しない。

                                                                    (2009.1.22.)