「飲み薬誤投与」

     医薬品情報21
            古泉秀夫

 

*青森県内の公立病院で、重い肝硬変で入院中の70歳代の女性患者が、利尿剤と誤って血糖降下剤を投与され、意識不明の重体に陥っていたことが分かった。患者は半月後に肝不全で死亡。五所川原署は遺体を司法解剖するなどし、投薬ミスと患者の容体が悪化したことの因果関係などを調べている[読売新聞,第47587号,2008.8.23]とする記事が掲載されていた。

この記事からは投薬ミスの詳細は不明であるが、投薬ミス=調剤ミスという雰囲気を感じないでもない。実際にはどの様な環境・背景があって事故が起こったのか、より具体的な中身が知りたいと思うのは、調剤経験を持っている人間の宿命みたいなものである。

薬に係わる『誤薬』や『誤投与』については、今でも新聞の記事中で、そのような活字を眼にすると、その都度、“特号活字”の迫力で迫ってくる圧迫感を感じる。現役時代に、調剤ミスをやって、しまったと思ったと思った瞬間、目が覚めたということがあるが、細かな薬を取り扱う調剤業務は、薬剤師にとって神経をすり減らす仕事なのである。

従って、如何に調剤ミスをなくすかについては、調剤に携わる薬剤師の全てが、営々と工夫を重ね、最上と思われる技術の集積を果たしてきている。今回の事例について、もれ承るところによると、末期の肝硬変の患者に対し腹部に貯留した水を排泄させるために利尿作用のある『アルマトール錠』を投与するため、看護師がCPで出力する時に誤って『アマリール錠』を入力し、患者に服用させてしまったということであった。

『アルマトール錠(長生堂製薬株式会社)』は、spironolactone 25mgを含有する製剤で、適応症は高血圧症(本態性、腎性等)。心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫、特発性浮腫、悪性腫瘍に伴う浮腫及び腹水、栄養失調性浮腫。原発性アルドステロン症の診断及び症状の改善である。

一方『アマリール錠(サノフィ・アベンティス株式会社)』は、glimepiride 1mg・3mgを含有する製剤で、適応症はインスリン非依存型糖尿病(ただし、食事療法・運動療法のみで十分な効果が得られない場合に限る。)で、この薬を必要としていない患者に投与したとすれば最悪である。経口糖尿病薬は、筆者が仕事を始めた当初は普通薬であったが、薬剤師の誤薬により患者が植物人間になったという事例が起きたことを契機として、『劇薬』の指定がされた経緯がある。

薬剤師が“読み間違いやすい薬品名”は、医師が“書き間違いやすい薬品名”と同義語であり、可能な限り類似薬品名・近似薬品名の薬は購入しないというのが誤薬・処方誤記回避のための基本原則である。『アマリール錠』は後発医薬品はないため、他に代替する訳にはいかないが、spironolactoneの製剤である『アルマトール錠』は、複数の後発品が市販されており、類似の商品名を回避することは可能なはずなのに、何故、選りに選ってこの製品の採用を選択したのか。その選択の仕方については、判断に苦しむところである。後発品の中で特に本品が最低価格という訳でもなく、当事者ではないため、本品選択の理由について推測でもの言うわけには参らないが、無理が通れば道理引っ込むみたいな決め方をしたのでなければ幸いである。

  (2008.9.16.)