『米・ヘパリン剤で死者81人』

 

医薬品情報21
古泉秀夫

 

米・食品医薬品局(FDA)は人工透析などの際に血液凝固を防ぐために使われる『ヘパリンナトリウム製剤』の副作用によると見られる死者が、2007年から2008年2月までに62人に上がったと発表した。2月に約20人の死亡を発表したが、その後に報告が相次いだ。FDAはヘパリンに似た化合物の混入が原因と見ており、ヘパリン製剤を塗布した医療機器などについても混入の有無を調べるよう、業界に指導する。

発表によると、副作用と見られるアレルギー症状による死者は、2006年3人、2007年は10月まで計13人だったが、11月に入り急増した。副作用の多発は当初、米バクスター社の製品で発生していたが、今回の62人には他社製品による発生も含まれている。国内の3社もバクスター社と同じ中国の工場で作った原材料を使っていたため、製剤を自主回収している。

ただ、現時点で混入物と副作用の因果関係は解明されていない。

人工透析などの際に血液凝固を防ぐために使われる「ヘパリンナトリウム製剤」の副作用問題で、国内2社が輸入した製剤の原薬から不純物が検出されていたことが厚労省などの調べで判った。米バクスター社等の製品を使った米国の患者81人が2008年3月までにアレルギー反応で死亡して発覚した。検出された不純物は、製剤の主成分であるヘパリンと似た『過硫酸化型コンドロイチン硫酸』。副作用との因果関係は不明だが、米食品医薬品局(FDA)が原薬を供給していた中国企業を調査したところ、提出された試料から、本来は含まれていない過硫酸化型コンドロイチン硫酸を検出。その後、他国の複数の企業の原薬からも見つかった。

厚労省が国内の各企業に製剤や原薬の検査を指示した結果、2社が輸入した原薬に含まれていることが判明した。製剤からは検出されなかったが、2社は独逸と中国の企業から不純物を含んだ原薬を輸入・保管、中国企業は米バクスター社にも出荷していた。

国内では3月、製剤を製造・販売していた別の3社が、米バクスター社と同じ供給源(米国)の原薬を使っていたため、製品を自主回収している。しかしこの不純物は、国内のヘパリン製剤会社が今回導入を決めた厳格な検査方法で、確認できるとして、厚労省は問題のない製剤については出荷を認めることを決めた。

ヘパリンナトリウム製剤の添付文書に記載されているヘパリンナトリウム(heparin sodium)の原料は『健康なブタの小腸粘膜に由来』する物質から精製するとされている。ブタなら相当広範囲な国で飼育されていると思われるが、何故、こんなものまで中国依存になるのか。製造するものに関して、中国は色々と問題がある国であることは、今まで報道されたニュースの中味が証明している。

ヘパリンナトリウム製剤は、一般に広く知られる薬というのではないが、医療上は重要な役割を持っている医薬品である。これがもし手に入らないという状況になったとすれば、医療業務の一部は間違いなく干上がってしまう。それほどに重要な薬の原料を、世界中が中国に頼っているというのは間違いではないか。少なくとも重要な薬の原料は自給する気構えがないと問題が起こる。

ただ、米国での副作用報告の大部分は、高用量(5,000-50,000単位)のボーラス(bolus)投与(迅速な作用を期待して静脈内に高用量の薬物を短時間で投与する方法)によるものとされていることから、厚生労働省は品質問題だけではなく、使用に際し『投与量・投与速度』について留意するよう注意を喚起している。

 

1)読売新聞,第47451号,2008.4.9.
2)読売新聞,第47465号,2008.4.23.
3)薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会;ヘパリンナトリウム製剤等について,平成20年4月22日

 

(2008.5.1.)