適応外使用『フィブリン糊』

                                                                  医薬品情報21
                                                                        古泉秀夫 

薬害C型肝炎問題で、手術時の縫合用接着剤として使用された『フィブリン糊』で感染したとみられる患者2人が、国などに対する損害賠償請求訴訟に加わったことが、7日終わった。血液製剤フィブリノゲンによる感染で提訴した原告は170人以上いるが、この製剤に別の薬品を加えて作るフィブリン糊の使用による提訴は初めて。『糊』は心臓外科などで、フィブリノゲン使用者の3分の1以上に当たる7万9000人に使われたと推定されているが、被害調査も遅れている。患者は「潜在的な感染者が多数いるはず、早急な調査と救済を」と訴えている[読売新聞,第47328号,2007.12.7.]。

フィブリン糊:フィブリノゲンに他の複数の製剤を配合して使う。1981年頃から1987年頃まで外科、心臓外科、脳外科、整形外科などで縫合時の止血用として使われた。旧ミドリ十字は19人の感染例を把握していた1989年に「『糊』による感染者はゼロ」と厚生省(当時)に虚偽報告。1988年以降他社がキットとして発売したが、これによる感染報告はない。

東京都内の私立病院で心臓手術時に縫合用接着剤『フィブリン糊』を930人に使い、このうちの少なくとも57人がC型肝炎ウイルスに感染していることが12日分かった。薬害C型肝炎集団訴訟の被害者救済法では『糊』も血液製剤「フィブリノゲン」と同様に救済の対象になるが、原告207人のうち『糊』を使用した人は2人に止まっている。『糊』による感染症は厚生労働省の調査でも50人弱しか判明しておらず、実態把握が大幅に遅れていることが改めて浮き彫りになった。

主に産科の出血時に使われたフィブリノゲンとは異なり『糊』は薬事法で承認された使用方法ではなかった。しかし、発売元の旧ミドリ十字は、小冊子を作るなどの広く使用法を紹介し、心臓外科、整形外科、脳外科などで止血用や手術時の縫合用(縫合時の縫い目の封鎖用)として幅広く使われた。厚生労働省は『糊』の使用者を7万9000人と推計している[読売新聞,第47364号,2008.1.13.]。

手術時の縫合用接着剤として使用された『フィブリン糊』が、火傷や鼻血の治療、美容外科手術など幅広い分野で使用されていた実態が、医師の証言などから判ってきた。2008年1月11日に成立した薬害C型肝炎被害者救済法の救済対象に含まれるが、自分の治療に使用されたこと自体を患者側が知らないことから、被害実態の調査が遅れているとされる[読売新聞,第47365号,2008.1.14.]。

しかし、『フィブリン糊』の使用は適応外使用であり、使用の実態は、医師以外の誰にも判らない。従って、医師が使用した患者を記憶していなければ、患者側は全く判らないということになる。感染の恐れがあるのは1981年から1987年頃までで、旧ミドリ十字が製造販売したフィブリノゲンを原料にして調製した『糊』ということである。その間に使用した記憶がある医師は、可能な限り患者の掘り起こしに努力すべきであり、この時期に観血的処置を受けた記憶のある人は、検査を受けてみた方がいいのではないかと思われる。

更に旧ウェルファイド社が調べた『フィブリン糊』の使用された疾患名と用途が次の通り報告されている。

脳腫瘍、脳出血、角膜移植、鼻血、中耳炎、歯肉出血、気胸、大動脈瘤、心臓手術、ペースメーカー埋め込み、悪性腫瘍、胃潰瘍、子宮筋腫、骨折、アキレス腱接合、胆石症、火傷、皮膚移植、神経縫合、椎間板ヘルニア等』

これらの疾患名で治療を受けた記憶のある人は、治療を受けた医療機関に積極的に相談すべきではないか。また医療機関も、患者からの相談があれば、丁寧な対応を取るべきである。

ただ、実際には、更に広い範囲で使用されていたのではないかと思うが、果たしてどうなんだろうか。病院によっては、医師の依頼を受け、『院内特殊製剤』として薬剤部の製剤室で調製していた可能性もある。ただし、1981年頃ということであれば、既に26年が過ぎている。あるいはその当時製剤に携わっていた薬剤師は、既に退職している可能性もあり、製剤伝票も保存はされていないと思われる。退職者にも声を掛け、兎に角使用していた事実を確認することが先ず最初にすることで、そこから手繰り寄せなければ、全体的な様相を把握することは出来ないのかもしれない。

兎に角、適応外使用で使用されたということである。使用実態を正確に把握するためには、医療機関の努力無しには調査は完結しない。

                                                                    (2008.1.23.)