シクロスポリンとグレープフルーツジュースの相互作用

KW:相互作用・シクロスポリン・ciclosporin・サンディミュン・グレープフルーツジュース・grapefruit juice

 

Q:シクロスポリンを服用している患者の食事箋に「グレープフルーツ禁」の指示が書かれているが、そのような相互作用はあるのか。また、どの程度の量で相互作用が起こるのか。

A:ciclosporinの製剤である『サンディミュン(ノバルティスファーマ株式会社)』の添付文書中に、食品・健康食品に関する相互作用について、次の記載がされている。

 

併用注意

薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
グレープフルーツジュース 本剤の血中濃度が上昇することがある。
本剤服用時は飲食を避けることが望ましい
グレープフルーツジュースが腸管の代謝酵素を阻害することによると考えられる。
セイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品 本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれ。本剤投与時はセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意。 セイヨウオトギリソウにより誘導された代謝酵素が本剤の代謝を促進すると考えられる。

 

その他、グレープフルーツジュースと本剤の相互作用について、次の報告が見られる。

*10人の健常人(男性:平均年齢 27.6歳、平均体重:76.0kg)を被験者とし、各試験の間に1週間のウォッシュアウト期間を設け、4種類の試験を行った。phase1、 phase2としてciclosporin(75mg/kg)を経口投与し、投与直前及び投与後2時間目に水又はグレープフルーツジュース250mLを飲用させた。phase3、phase4として3時間かけてciclosporin(2.5mg/kg)を静脈内投与し、同様に投与直前及び投与後2時間目に水又はグレープフルーツジュース250mLを飲用させた。

投与24時間までの血液を適時採血し、ciclosporinの全血中濃度を測定した。静脈内投与では、ciclosporinの体内動態にグレープフルーツジュースによる影響は殆ど無かった。しかし、経口投与例では、ciclosporinの全被験者の平均AUCとCmaxは、水を飲用したときに比較して約1.5倍に増大した。10人中3人の被験者はCmaxが2倍以上に増大した。また、ciclosporinの絶対バイオアベイラビリティーはグレープフルーツジュースによって0.22から0.36へ約62%上昇した。しかし、消失半減期(t1/2)は変化しなかった。

体内動態 経口投与 静脈内投与
  GF-j GF-j
Cmax(ng/mL) 936 1,340* 2,569 2,643
Tmax(hr) 3.2 4.2* ? ?
t1/2(hr) 6.3 8.1 6.1 5.7
AUC(ng・hr/mL) 6,722 10,730* 10,242 10,975

 

また、平常時にciclosporinの代謝能力が高いヒト(Cmaxが小さい人)ほど、グレープフルーツジュースの効果が増大するとする報告や ciclosporinの静脈内投与時には、影響せず、経口投与の際にバイオアベイラビリティの上昇が報告されている。グレープフルーツジュースと ciclosporinの相互作用はグレープフルーツジュース中に含まれる何等かの物質が小腸のP4503A4の活性を阻害したものと考えられている。

グレープフルーツジュース中には、主に配糖体として数種のフラボノイドが存在している。ナリンジンやクエルセチン、ケンフェロールは専らグレープフルーツジュース中に含有されており、相互作用の見られないオレンジジュース中には含まれていない。

ナリンジンはグレープフルーツの苦みの原因とされており、最も多量に存在するフラボノイドである。グレープフルーツジュース中に 300?800mg/L存在し、腸内で加水分解されアグリコンのナリンゲニンに変換される。ナリンジンやナリンゲニンがciclosporinとの相互作用に影響するのではないかとする報告も見られる。

一方、ciclosporinとグレープフルーツジュースの相互作用については、臨床的重要性は不明であるとする報告もされており、両者の相互作用について、必ずしも確定した情報とはなっていないようである。

なお、上記の実験はグレープフルーツジュース250mLの飲用の結果であり、果実としてのグレープフルーツを喫食した際の報告例ではない。

病院給食で付けられるグレープフルーツはおおよそ1/3カットあるいは1/4カットの果実であり、この程度の果肉の喫食が直ちに上記の試験結果を反映するとは考え難い面もある。但し、今回の事例は、医師が食事箋に「禁」の記載をしているのであって、文献情報から一方的に無視することはできないと考えるので、給食に付けられる果実の量を示し相談することが必要である。

なお、本剤経口投与時の吸収は一定しておらず、患者により個人差があるので、血中濃度の高い場合の副作用並びに血中濃度が低い場合の拒否反応の発現等を防ぐため、患者の状況に応じて血中濃度を測定し、トラフレベル(troughlevel)の血中濃度を参考にして投与量を調節すること。特に移植直後は頻回に血中濃度測定を行うことが望ましいとする重要な基本的事項が添付文書に記載されており、厳密な管理下に投与されているとすれば、QOLの観点からも「禁食」扱いにするのは実際の体内動態の変化を見てからでもよいのではないかと考える。

[015.2.CIC:2000.3.13.古泉秀夫]


  1. サンディミュンカプセル添付文書,2000.1.改訂
  2. 澤田尚之・他:阻害剤としてのグレープフルーツジュース;月刊薬事,38(3):579-592(1996)(2月臨時増刊号)
  3. DTSS;ファーストデータバンク,2000