横紋筋融解症について

KW:語彙解釈・副作用・横紋筋融解症・rhabdomyolysis・横紋筋・骨格筋・striated muscle・ミオパシー・myopathy・筋症・ミオグロビン・myoglobin・statin系・HMG-CoA還元酵素阻害薬

Q:横紋筋融解症について

A:横紋筋=骨格筋(striated muscle)。

横紋筋融解症(rhabdomyolysis)は、骨格筋細胞の融解、壊死により筋体成分が血中へ流出した病態である。その際、流出した大量のmyoglobin(ミオグロビン)により尿細管に負荷がかかる結果、急性腎不全を併発することが多い。また稀ではあるが呼吸筋が障害され、呼吸困難になる場合もある。

従って血液透析などの適切な措置が必要となる。

骨格筋の崩壊は、外傷、熱射病、痙攣発作、低カリウム血症、動脈[性]不全、圧挫症候群、インフルエンザ、毒物中毒など多くの原因による。

服用薬剤の副作用の場合、初期症状に気付いた場合には、直ちに服用を中止し、主治医を受診するよう注意する。

  • 症状:発症時の自覚症状として、四肢の脱力、腫脹、痺れ、痛み、赤褐色尿(myoglobin尿)等があり、これに腎不全症状として無尿、乏尿が加わる場合もある。発症は急性、亜急性、緩徐発症を示し、筋痛、筋力低下は下肢・大腿部に局限することが多いが、全身性のこともあり、呼吸筋、嚥下筋が障害されることもある。従って歩行障害、運動障害、呼吸障害、意識障害など様々な症状を来す場合がある。
  • 検査所見myoglobinCPK(クレアチニンホスホキナーゼ)などの筋逸脱酵素の急激な上昇が認められる。
newquinolone系薬剤 1-6日間と短期間の服用で急激に発症。
bezafibrate 1日-2年の間で発症が報告されている。2週間以内が50%以上。
HMG-CoA還元酵素阻害薬 1年以内が殆どであり、4ヵ月以内が50%と報告。
  • 前駆症状:『手足の痺れ、手足の脱力感、手足・肩・腰・全身の筋肉が痛んだり、こわばったりする。全身倦怠感、尿色調が赤褐色』。

以上の症状が見られたら直ちに服薬を中止し、主治医に受診する。

横紋筋融解症

HMG-CoA還元酵素阻害薬(pravastatin、 simvastatin、fluvastatin)、fibrate系(clofibrate、bezafibrate)で起こるので、筋痛、筋力低下、 CPK上昇が見られ血中、尿のmyoglobinが上昇し、尿細管壊死による急性腎不全を伴う。横紋筋融解症は腎障害があるとき起こりやすいため重篤な腎障害(クレアチニン2.5mg/dL以上)には用いてはならない。

横紋筋融解症の発症機序
  1. コレステロールの減少が原因で筋膜の流動性が亢進。細胞膜障害の発現。Clコンダクタンスがブロックされることにより発症。
  2. コレステロール生合成系の中間代謝物産生系が抑制され、イソペンテニルアデニンピロリン酸の減少によるtRNA合成阻害、Rasのゲラニルゲラニン化の抑制等。
  3. 細胞内Caの増加による細胞死による

等の機序が報告されているが、未だ定説はない。

総評

statin系の薬剤は、副作用は非常に少ない薬とされている。

しかし、脂溶性のcerivastatin sodium(セリバスタチンナトリウム)は、高頻度の筋炎並びに横紋筋融解症を発症し、更にそれに起因する死亡例が世界中で200例に及んだことから 2001年cerivastatinは世界市場からの撤退を余儀なくされた。

最近10年間のstatinを用いた大規模臨床試験から換算すると、 statin投与による救命症例と死亡症例の比率を見ると、救命が1万-10万例に対し死亡は1例といわれている。

myopathy(ミオパシー)の発現頻度は、我が国では5%未満といわれているが、諸外国では10倍以上にCPKが増加した場合、myopathy発症を考えるとされているが、発症頻度については7万例に1例と算定されている。

myopathyは単に筋肉痛、易疲労感を感じるだけのもの、更に血中のCPKのみが上昇する。また重症例では横紋筋融解症のため急性腎不全により死亡する等の症例も存在する。

但し、statinによる横紋筋融解症は100万処方に1例と算定されている。myopathyの初期症状は、筋肉痛よりも筋肉がだるい等の訴えがあることに注意が必要である。

その他

statinの副作用について、『一般に忍溶性がよい。筋肉及び肝臓での副作用は、用量関連性の傾向がある。

治療を開始する前にクレアチンキナーゼ(CK)及びアミノトランスフェラーゼ(ATs)濃度を測定すること。筋肉症状が現れた場合には、CKの測定を繰り返し行う。

aminotransferases濃度は定期的に測定した方がよい。多くの薬剤(主にフィブラート、シクロスポリン、抗真菌薬、マクロライド系抗菌薬及び抗レトロウイルス薬)が、statinとの併用によりmyopathy及び/又は肝毒性のリスクを高めることがある。

statinは動物で発癌性を示すが、殆どの研究でstatin服用患者の発癌率が増加したという証拠は示されていない』とする報告も見られる。

HMG-CoA還元酵素阻害薬による筋痛症及び関節痛の両者は、本薬投与中止後2-3週間で回復するの報告が見られる。

尚、statin系薬剤の体内消失予測時間は下表の通りである。

一般名・商品名(会社名)

半減期 体内消失時間
atorvastatine calcium hydrate
リピトール錠(アステラス)
約9.44hr. 約47hr.
fluvastatin sodium
ローコール錠(ノバルティス)
約1.32hr. 約6.6hr.
pitavastatin calcium
リバロ錠(興和)
約11.6hr. 約58hr.
pravastatin sodium
メバロチン錠(第一三共)
約1.5hr. 約7.5hr.
rosuvastatin
クレストール錠(アストラゼネカ)
約20.2hr. 約101hr.
simvastatin
リポバス錠(万有)
約2-12hr. 約10-60hr.

HMG-CoA還元酵素阻害薬は、コレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を特異的かつ拮抗的に阻害する。その作用はコレステロール合成の主要臓器である肝臓、小腸に選択的であるとされているが、薬物が体内から消退した後も、何等かの影響が持続するものと考えられる。

myopathy(筋症)

筋肉自体が侵されて生じる疾患の総称。筋症は筋肉に病変が起こっている場合で、筋肉は種々の原因で侵されるが、外因による筋障害も多く、ステロイドミオパシー、クロロキンミオパシー、ビンクリスチンミオパシーなどがある。こうしたミオパシーの際には、一般的には四肢近位筋である肩、腰などの筋の脱力が目立ち、立ち上がり動作、階段の昇降などに困難を自覚することが多い。

筋症では、広範な筋肉痛、筋肉圧痛、脱力感や著明なCK(CPK)*の上昇がみられる。

*CK(CPK):creatine kinase(CK:クレアチンキナーゼ)・creatine phosphokinase(CPK:クレアチンホスホキナーゼ)。基準値:57-197 IU/L(男性)、32-180 IU/L。

[615.8.HMG:2006.4.17.古泉秀夫]


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  2. 日本病院薬剤師会・編:重大な副作用回避のための服薬指導情報[1];薬業時報社,1997
  3. 名尾良憲・他編著:臨床医薬品副作用ハンドブック;南山堂,1999
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2006
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  6. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2001
  7. 多田紀夫:HMG-CoA還元酵素阻害薬の副作用;ドクターサロン,50(4):246-252(2006)
  8. ローコール錠添付文書,2005.5.
  9. 高久史麿・監修:臨床検査データブック;医学書院,2003-2004
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