L-カルボシステインの催奇形性

KW:催奇形性・L-カルボシステイン・L-carbocisteine・胎児毒性・ムコダイン錠・システイン誘導体・cysteine derivatives

 

Q:現在、妊娠中であるが、ムコダイン錠の処方が出た。服用することで奇形発生あるいは胎児への影響はないか

A:ムコダイン錠(杏林製薬)はL-carbocisteineを含有する気道粘液調整・粘膜正常化剤である。添加物としてクロスカルメロースナトリウム、ポリビニルアルコール(部分鹸化物)、ショ糖、脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、タルク(500mg錠のみ)を含む。

システイン誘導体(cysteine derivatives)の一つであるcarbocisteineは、喀痰中のmucoproteinに作用し、mucoproteinのS-S結合を開裂することによって低分子化し、喀痰の粘稠度を下げるとされている。本剤の作用機序として特に細胞増殖に影響する毒性は報告されていない。

本剤の添付文書中に記載されている『妊婦・授乳婦等への投与上の注意』は、以下の通りである。

『妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい [妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]』

過去に催奇形作用の症例が報告されている薬物のうち、ヒトでの催奇性がほぼ確実と考えられている危険評価点5に属する薬物として、抗てんかん薬: phenytoin、trimethadione、抗凝血薬:warfarin、抗悪性腫瘍剤:busulfan、その他の皮膚外用薬: etretinate等が報告されており、その他危険度評価1-3に属する薬物139種が報告されているが、その中にcarbocisteineは含まれていない。また、妊娠中期・後期に服用を注意すべき薬物例中にも含まれていない。

また、本剤は1965年にフランスで、1968年スイス・1970年ベルギー・1972年英国・1975年西ドイツ・1980年日本でそれぞれ発売されている。我が国で発売されてから既に24年が経過しており、本剤の適応から過去に妊娠初期等に妊娠に気付かず服用した事例が全くないとは考えられない。

しかし、現在までに本剤による催奇形性の報告はされておらず、短期間の本剤の服用により胎児に重大な影響を及ぼすとは考えられないため、妊娠中の一定期間、本剤を服用したとしても特に問題はないと考えられる。

[065.CAR:2004.10.26.古泉秀夫]


  1. ムコダイン錠添付文書,2001.7.改訂
  2. 藤原元始・他編:医科薬理学;南山堂,1986
  3. 高柳一成・編:薬の安全性-その基礎知識;南山堂,2000
  4. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2004
  5. ムコダイン錠・シロップインタビューフォーム, 1994