芫青(ゲンセイ)の毒性

対象物 芫 青(ゲンセイ)
成分

青斑猫はカンタリジン1%以内を含有する。
カンタリジン(cantharidin):白色結晶。カンタリスの有効成分で、約0.6%含まれている。

一般的性状

芫青(ゲンセイ)、英名:spanish fly、ヨーロッパ産カンタリスのことで、基原はアオハンミョウ(青斑猫)、学名:Litta vesicatoria(L.)De Geer(ツチハンミョウ科:Meloidae)である。
斑猫カンタリス(cantharis英名:cantharide)。日本産のマメ ハンミョウ(豆斑猫)Epicauta gorhami Marseul、中国産のMylabris phalerata Pallas又はM.cichorii Linné(Meloidae)である。本品を乾燥したものは定量するとき、カンタリジン(C10H12O4:196.21)0.6%以上をを含む。本品は不快な刺激性の臭いがあり、味は僅かに辛 い。本品の粉末は皮膚の柔らかい部分又は粘膜に付けば痒くなり、甚だしけば発疱する。皮膚刺激薬として外用され、毒性が強いため内用されることはない。
ヨーロッパ産のものは『芫青』という。

甲虫目ツチハンミョウ科の昆虫。体長は細長く約20mm。頭部は赤色、前胸、 前翅は黒色で、黄色い縦線がある。大豆の葉などを食害する成虫は、体内に猛毒成分を含有する。昆虫の豆斑猫は、発疱剤として使用されている。カンタリジンは以前、一種の催淫剤として使われた。しかし、強い刺激作用があり、内服すると腎障害を起こす。豆斑猫は不快臭を持つ灰黒色の甲虫で、皮膚粘膜に付くと痒くなり、赤く腫れて水疱ができる。早朝虫の活動が鈍いときに集めて乾燥し、生薬として用いられる。
豆斑猫(Epicauta gorhami Marseul)。日本に分布する昆虫で、乾燥した虫体をカンタリスとして薬用に供されたが、豆斑猫が大豆などの葉を食害し、農薬の影響によって激減し、更に副作用が強いこともあって、現在はあまり使用されない。
カンタリジンには皮膚刺激作用があり、発毛、発泡の目的で外用され、また、利 尿剤として内服されることもある。
カンタリスチンキ(cantharidis tincture):カンタリス(粗末)100gをエタノールに溶かし、1000mLとしたチンキ剤で、黄褐色澄明の液。皮膚の刺激剤で、脱毛症、禿頭に本剤の1%-稀エタノール溶液を塗布する。
カンタリス軟膏(cantharidis ointment):発疱膏ともいう。皮膚刺激薬。カンタリスにラッカセイ油、蜜鑞、テレビンチナ、クロロホルム、塩酸を配して軟膏としたもの。類緑黄色
である。肋膜炎、リウマチ、神経痛に適用する。

毒性

胃腸管から吸収され、皮膚からの吸収はわずか。腎より排泄される。10-30mgは致命的なことがあ る。
カンタリジン(ヒト致死量:約30mg)。有毒成分は皮膚からも吸収される。

症状

経口摂取:口と喉の灼熱感、腹痛、悪心・嘔吐、下痢、吐血、無尿、血尿、遅く弱い脈拍と低血圧症、昏 睡、痙攣が見られる。また呼吸障害で死亡。排尿時の劇痛。腎障害。
誤飲時、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器系症状が発現する。血圧低下、尿毒 症、呼吸不全等を起こし、死亡することがある。

内服時、尿路を刺激し、男性性器の勃起を促すが、有毒成分が排出される時に腎 臓炎や膀胱炎を誘発し、少量でも反復使用すると慢性中毒の危険がある。

処置

[1] 多量の水で胃洗浄。塩類下剤(油又はアルコールは不可)。
[2]痛みにはモルヒネ15mgを皮下注射。
[3]興奮と痙攣にはジアゼパム5-10mgを緩徐に静注、あるいは筋肉深く注射。
[4]循環器ショックには補液点滴静注。出来れば血管収縮剤。
[5]電解質障害に対して適切な治療[6]食道が酷く侵されたときには、胃洗浄の前にチオペントン静注による麻酔を必要とするかもしれない。

事例

「芫青は、いわばご禁制の薬です。身分も使い途も明らかでない客に、芫青を売ることはご法度なんですよ」
「それはどうしてなんです」
「芫青は、斑猫ともいう。このうえなく貴重な妙薬として用いられる一方、人の命を奪う恐ろしい毒にもなるのがこの斑猫だ」
「芫青とは、斑猫のこと………!」[笹沢佐保:八丁堀・お助け同心秘聞<御定法破り編>-毒薬と小町娘;祥伝社ノン・ポシェット,1997]

備考

豆斑猫について、薬科学大辞典ではハンミョウ科としているが、他の資料ではツチハンミョウ科とされている。しかし、有毒の豆斑猫はツチハンミョウ科に属するとするのが正解で、ハンミョウ科に属する斑猫は、有毒昆虫ではないとされている。なお、第七改正日本薬局方解説書に記載されている豆斑猫の形態については、豆斑猫の特徴である頭部の赤について何ら説明が無く「頭部はほぼ心臓形で艶のある灰褐色を呈し………」となっているが、このような外形を持つ豆斑猫がいるのかどうかは、昆虫の専門家ではないので不明である。本文中の豆斑猫の図は描いたものである。

文献

1) 薬科学大辞典 第2版;広川書店,1990
2)大木幸介:毒物雑学事典-ヘビ毒から発ガン物質まで-講談社ブルーブック,1999
3)白川 充・共訳:薬物中毒必携第2版;医歯薬出版株式会社,1989
4)小川賢一・他監修:危険・有毒生物;学習研究社,20035)第七改正日本薬局方解説書;廣川書店,1961

調査者 古泉秀夫 記入日 2004.8.23.