トリカブトの毒性

対象物 ヤマトトリカブト[烏頭(ウズ)・烏喙(ウカイ)・天雄・附子・側子]。生薬名:附子。ウスバトリカブト、ナンタイブシ。カラトリカブト(Aconitumcarmichaeli)。
成分 アルカロイド多数が知られる。アコニチン、メサコニチンの他、強心成分としてヒゲナミンを含む。イサコニチン、アコニン、ヒバコニチン、アチシン、ソンゴリン。
一般的性状 ヤマトトリカブト(Aconitum japonicum):キンポウゲ科トリカブト類に属する。北海道のカラフトブシ、北海道南部から東北地方にかけてのエゾトリカブト、本州中央部に分布するヤマトトリカブト、高山地帯にあり葉が細く切れ込んだホソバトリカブト、北海道大雪山ダイセツトリカブト、利尻島のリシリブシ、本州近畿以西のサンヨウブシとかなり細分されている。化学成分からみて妥当な分類としてトリカブト属が30種、変種が22種、計52種という多くの種類が存在する。
附子は充実した塊根を種々の操作で毒成分を少なくしたもので、塩附子(エンブシ)、炮附子(ホウブシ)があり、これは我が国にも輸入されている。烏頭は減毒加工がされていないので毒性が激しく、あまり用いられない。漢方では鎮痛、強心、興奮、利尿に応用する。
ウスバトリ鳥兜カブト:キンポウゲ科。北海道の高山帯の草原に自生する多年草。有毒部分全草。地下の根は特に毒成分が多い。アルカロイドのアコニチン、メサコニチン、イサコニチンなどを含み、中毒症状は強い痙攣を起こして死亡する。漢方処方に用いられる附子、烏頭という生薬は、ウスバトリカブトと同類の中国産の根を原料にして調製したもので、強心、鎮痙、鎮痛の薬効がある。ただし、これは専門医が用いるもので、一般には毒性が強くて危険である。北海道にはエゾトリカブトの他にテリハブシ、セイヤブシ、カラフトブシ、ダイセツトリカブト、シレトコブシ、ヒダカトリカブトなどが自生する。
ナンタイブシ:関東地方北部、中部地方東部に産する多年草。日光男体山に多く自生することからこの名称がついた。本品の塊根を生薬として使用するが極めて毒性の強い成分が含まれ、有毒植物の代表格である。アルカロイドのジテルペン系で、毒性の強いアコニチン、メサコニチン、アコニン、ヒバコニチンを含み、低毒性成分のアチシンの他ソンゴリンなどを含む。毒性を低くした加工附子が漢方処方に用いられ、鎮痛、鎮痙、強壮などに用いられる。素人療法には不向き。
毒性 代表的な成分のアコニチンは中枢神経の麻痺作用があり、ヒトの致死量は3-4mg(精製された純粋なアルカロイドとして)と毒性が強い。アコニチンは経皮吸収・経粘膜吸収される。トリカブトによる死因は、専ら心室細動ないし心停止である。
マウス(皮下)推定致死量
アコニチン:0.4-0.6mg/kg・メスアコニチン:0.3-0.5mg/kg・ジェスアコニチン:0.2-0.3mg/kg
人推定最小致死量
本植物:1g・チンキ5mL・アルカロイド2mg
人致死量
アコニチン:3-4mg 毒性部位 根>葉>茎
症状 摂食後15-30分、時には直後から舌、口唇、皮膚に痺れが発現し、次第に胸部、手足に拡がり、起立不能になる。皮膚の痺れ感や刺すような痛みが特徴的である。筋肉の硬直感を伴うことがある。煎薬として服用した時は、数分で症状が発現する。極く初期の症状としてはのぼせ、顔面の火照りなどを感じることもある。吐き気、嘔吐がやや遅れて現れる。唾液の分泌亢進、発汗あるいは冷汗、四肢冷感があり、体温が低下することもある。尿失禁あるいは排尿障害があることがあるが、下痢は普通見られない。この時期、例外なく意識は清明である。白血球増多とCK-MM値の上昇が見られるのが普通である。血圧は当初正常であるが、間もなく低下する。不整脈によるものと考えられる。
最も特徴的な症状は不整脈で、摂取後1時間位には出現する。多形性心室性期外収縮、上室頻拍、頻拍型心室性固有調律、変行伝導を伴う上室頻拍、房室ブロック、脚ブロック、多形性心室頻拍とあらゆる不整脈が出現する。
処置 不整脈に対する第一選択薬はフェニトイン注(アレビアチン注)である。
成人25mg/回・小児0.5-1.0mg/kgを1-2時間おきに緩徐に静注する。
重症の不整脈はこの量では不十分で、15mg/kgを総量1g 0.5mg/kg・minを超えない範囲で静注する。
リドカインも心室性不整脈には有効であるが、伝導障害に対しては効果がない。
初回量1mg/kg、必要なら20分後0.5-1.0mg/kg静注する。
徐脈や伝導障害には、アトロピンが有効なことがある。成人0.5mg/回、小児10-30μg/kg(1回0.4mgまで)静注、必要に応じ繰り返す。重症の不整脈は、経静脈的にペースメーカーを留置してペーシングを行う。1度以上の房室ブロックがある時は、予めペースメーカーを挿入しておいた法がよい。
キニジン・プロカインアミド・プロプラノロールは無効のことが多い。
電気的除細動は、しばしば重篤な伝導障害と心室性不整脈を招来することがあり、危険である。■毒物の除去
*催吐、
*胃洗浄(1000倍希釈過マンガン酸塩溶液)*活性炭、牛乳、タンニン酸液投与
*塩類下剤投与
排泄促進
*血液透析-無効。血液吸着は有効との報告がある。
対症療法
*カリウム値の補正
*不整脈の治療(上記参照)
*ステロイドの投与
*抗けいれん剤、鎮痛剤投与■全身管理
*輸液。
*酸素吸入と人工呼吸。
*循環動態の安定。
事例 アルカロイド系?例えばトリカブトの根に含まれる毒はかなりの毒性を示し、しかも、それによって起こる症状は心筋梗塞に極めてよく似ているといわれる。………まもなく解剖結果の詳細が伝えられた。毒物はやはりアルカロイド系のものと断定されたそうだ。ナイトテーブルにあったグラスから、ビールの残りとともに毒物が検出された。………[内田康夫:鳥取雛送り殺人事件;角川文庫,1999]。
備考 別名:継母の毒(古代ローマ)、悪魔の草(独逸)。致命的といわれるトリカブトの量は根で親指大かその半分とされているが、それだけの量を食べ物や飲み物に混合するのは困難であり、相当の苦味を有する。
文献 1) 伊澤一男:薬草カラー大事典;株式会社主婦の友社,1998
2)内藤裕史:中毒百科-事例・病態・治療;南江堂,2001
3)植松 黎:毒草の誘惑;講談社,1997
4)西 勝英・監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版;医薬ジャーナル,2001
調査者 古泉秀夫 調査年月日 2004.1.12.