「毒茸(3)-毒鶴茸の毒性」

対象物 ドクツルタケ(学名:Amanita virosa (Fr.) Bertillon)、和名:毒鶴茸。別名:シロのブスキノコ・シロコドク・テッポウタケ。
成分

毒鶴茸の有毒成分は、ピロトキシン類(pilotoxin)、ファロトキシン類(phallotoxin)、アマトキシン類(amatoxin)及びその他の化合物としてジヒドロキシグルタミン酸を含有する。
ファロイジン(phalloidin)及びファロイン(phalloine)というアミノ酸7個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)やアミノ酸8個からなるペプチド系(あるいはalkaloid系)であるアマニチン(amanitin)類である。

一般的性状

毒鶴茸は、ハラタケ目、テングタケ科、テングタケ属(amanita)に分類される毒茸で、アマニタトキシン群(amanitatoxin)に分類される。

毒鶴茸は夏から秋(8-10月)に、雑木林、ブナ、水ナラなどの林内地上毒鶴茸 に発生する。中型-大型茸で、傘は白色、湿っていると きはやや粘性がある。傘の縁に条線はない。襞は白色で、密。柄は白色で、上部には膜質の鍔、基部には大きな袋状の壺がある。柄の表面は小鱗片-ささくれ状となる。白くて美しい姿をしているが、致死性の高い猛毒性分を含んでいる。

食用となる茸にも白色のものがあるので、間違えないようにする注意が必要である。この種の様に「傘に条線がない」、「柄に鍔がある」、「柄の基部に袋状の壺がある」という特徴を兼ね備えたテングタケ属菌には、猛毒を持つものが多く知られている。

毒鶴茸は日本全国に分布する。毒鶴茸の傘は直径10cmほどで、初め丸山型をしているが、後に殆ど平らに開く。表面は滑らかでやや粘る。柄は長さ8-25cm程度の円柱状。

毒性

phallotoxinは経口摂取では分解されやすいため、中毒の本体はamanitatoxin類であるとされている。amanitinは加水分解されず、比較的安定で加熱しても分解しない。従って、加熱調理しても毒性はなくならない。amanitinは“腸肝循環”するという特性を有しており、長時間体外に排泄されない。
amanitatoxin群
α-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg。
β-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.5mg/kg
γ-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.2mg/kg
ε-amanitin:マウス腹腔内(LD50):0.3mg/kg
amanullin・amanullinic acid・proamanullin・amanin
amanitinの致死量:0.1mg/kg。
毒成分には硫黄を含み、成熟した白卵天狗茸を1本以上の摂食で致死的。

症状

amanitinには粘膜刺激作用がないため、毒茸を摂取しても直後に症状が見られることはない。摂食後6-24時間経過後、嘔吐、腹痛、下痢が発現する。卵天狗茸による下痢は、大量の水性便で、コレラ様の水性便を呈する。その後、黄疸、腎機能障害、肝機能障害が発現する。amanitinはRNAポリメラーゼと結合し、RNAの合成、更には蛋白合成を阻害して肝障害をもたらす。劇症肝炎に似た症状で死亡する者が多く、死亡率50%以上とされる。

潜伏期を経て突然激しい嘔吐、下痢、腹痛で発症。粘液便、血便を排泄するコレラ様症状。 脱水・脱塩(低カリウム血症)

筋肉硬直、痙攣、頭痛、低血糖、嚥下困難、傾眠、精神錯乱、抑うつ状態。

溶血、黄疸、肝機能障害、出血、尿閉、血尿、中毒性腎炎、内臓浮腫と疼痛。

衰弱、血圧低下、チアノーゼ、中枢神経障害、心筋障害、血管運動中枢障害、肺水腫、循環不全

遅延性肝炎・腎不全(48-72時間後に起こる)

意識不明・昏睡・死亡。

処置

?胃洗浄:摂食後6時間以内であれば催吐し、胃洗浄を行う。

?活性炭・下剤投与(下痢がない場合):摂食後6時間以上経過している場合、活性炭と下剤投与。肝及び腎機能の検査を数日間は行う。活性炭投与は4時間毎に2日間にわたって投与する。その他、十二指腸チューブによる胆汁の除去も有効。

処方例

活性炭 50gを微温湯300-500mL(小児では1g/kgの活性炭を生理食塩水10-20mL)に溶解し、服用させる。その後、半量を3時間毎に24時間まで繰り返し投与。下剤としてD-ソルビトール液(75%)2mL/kgを投与し、6時間後に排便がなければ半量を繰り替えし使用(保険適用外)。

?強制利尿:amanitinは48時間以内に大部分が尿中に排泄される。従って強制利尿が有効。

?血液吸着:活性炭カラムによる血液吸着によるamanitin除去。肝障害予防のため実施。血液透析は、amanitinが膜を通過し難いので、無効とされているが、腎障害のある場合は適用となるの報告。

対症療法

?輸液:脱水・電解質異常・低血糖の改善。肝保護剤の同時投与を行う。

?呼吸管理:酸素吸入、人工呼吸等▼?循環管理

事例

「もちろんです。諏訪でとれる三種の山草とあるきのこから煮だして取りだされた毒です。本当なら死んでもおかしくないですが、さすがですね、体が頑健なのと飲んだ量が少なかったおかげでこうして一命を取りとめました。でも………」▼「でも、なんだ」▼「これを飲まないと、あと二日ともたないでしょう」▼「あと二日………」▼その言葉を裏づけるように、体の重みはさらに増してきた。指一本動かすのも大儀だ。▼「本当に毒消しです。もし興津様を殺すつもりでいるんだったら、こんなわずらわしい手をつかわずとも、あの大木の根元で殺していました。重い体を引きずって、わざわざここまで連れてくる必要なんかありません」▼女のいい分は正しいように思えた。 [鈴木英治:手習重兵衛 道中霧;中公文庫,2005]

備考

単に毒茸ということで、具体的な名前は書かれていない。しかし、摂食することで、死亡者が出るほど毒性の強い茸としては、毒茸の御三家に数えられる“卵天狗茸・白卵天狗茸・ドクツルタケ”があるが、今回は“ドクツルタケ”を取り上げる。
最初、“ドクツルタケ”という言葉を眼にしたとき、『ツル』は草冠の『蔓』であろうと勝手に決めていたが、実際に和名の漢字を見たとき、鳥類の『鶴』の字が当てられているのを見て、この字を当てた人は、相当皮肉の強い人であろうと想像した。毒茸に『毒鶴茸』は、あまりにも美しすぎはしないか。しかし、現物を見たとき、印象として鶴を思い浮かべたのかもしれないが、国内毒茸御三家の一つに位置づけられる茸の中で、他の即物的な命名の二種に比べて、飛び抜けて美名である。

文献

1)古泉秀夫:毒キノコ中毒時の中毒症状・処置;DID-0037,1998.10.19.

2)舟山信次:図解雑学 毒の科学;ナツメ社,2004

3)長沢英史・監修:日本の毒きのこ;株式会社学習研究社,2003

4)成田傳蔵・編集協力:Field Selection-きのこ;北隆館,1997

5)海老原昭夫・編著:知っておきたい毒の知識;薬事日報社,2001

6)(財)日本中毒情報センター・編:改訂版 症例で学ぶ中毒事故とその対策;じほう,2000

7)吉村正一郎・他編著:急性中毒情報ファイル第3版;廣川書店,1996

8)鵜飼 卓・監修:第三版 急性中毒処置の手引き;薬業時報社,1999

調査者 古泉秀夫 記入日 2005.8.5.