規制緩和

医薬品情報21

古泉秀夫

 

小泉総理が進めた規制緩和が経済界では、ライブドアの堀江貴文氏と村上ファンドの村上世彰氏という二人の錬金術師を生んだ。規制緩和もいいが、何をやっても許されるというのではなく、社会責任を逸脱した際の罰則規定は厳しいものを作っておいて貰わないと、必ず勘違いする人種が出てくる。

ところでこの規制緩和、止せばいいのに医薬品の世界や食品の世界にも導入され、今頃になって、食品成分を抽出した健康食品について、摂取上限量を決めるなどという作業を始めているが、本当は逆ではないのか。

中でも不思議なのが“コエンザイムQ10”(coenzyme Q10)を健康食品として認めてしまったということである。これは医療用医薬品として市販されており、食品に区分したのでは医薬品として承認されている製品の取扱はどうなるのかということである。

医薬品としての“コエンザイムQ10”は、一般名ユビデカレノン(ubidecarenone)で、5・10mg/錠・10mg/糖衣錠・ 5mg/Cap.・1%(10mg/g)顆粒剤が市販されている。適応症は『基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状』である。服用量は1回 10mg 1日3回である。

ubidecarenoneの作用は、リンパ管を経て吸収され、細胞内ミトコンドリアに取り込まれて、虚血心筋に直接作用し、酸素利用効率を改善する。

このため心筋は虚血条件下でも高いATP産出機能を維持し、心筋組織の障害を軽減する。また、心機能の低下した老年者の心拍出量を増加させ、運動耐容能を増大させるとされている。

副作用として

  1. 消化器(胃部不快感、食欲減退、嘔気、下痢)
  2. 過敏症(発疹)

等が報告されている。

同義語:ユビキノン-10(ubiquinone-10)、ユビキノン(ubiquinone)、補酵素Q10(coenzyme Q10)、ビタミンQ(vitamin Q)、コォキューテン(Co-Q10) Co-Q10は体内でも合成される脂溶性のビタミン様物質で、vitamin E同様脂質の酸化を防ぐ抗酸化作用がある。

細胞膜を酸化から保護するとともに、酸素の利用効率を高めるとされている。

その他、Co-Q10には精子の活動を活性化したり、免疫細胞や白血球の作用を亢進する。l

また糖質をエネルギーに変換する作用により血液中の糖分を減少させる作用があることも認められている。 Co-Q10の含有量の高い食品:ウシ肝臓、ウシ・ブタ内臓、牛肉、豚肉、鰹、鮪。

ところで2006年6月23日の読売新聞[第46797号]に『コエンザイムQ摂取上限量設定を見送り食品安全委「データ不足」』とする見出しが見られた。

内閣府食品安全委員会(寺田雅昭委員長)は22日、人気の健康食品の成分「コエンザイムQ10」について、安全性を判断する科学的なデータが少ないことから1日摂取量の上限量の設定を見送る評価書案をまとめた。

それによると、食品として健康な人が長期間摂取した場合の安全性のデータは「不十分」と判断。一方、医薬品の場合副作用が報告されていることを挙げ、「健康影響は必ずしも明確でない」とした。

その上で安全性を確保する方策として、医薬品としての1日使用量(30mg)を超えない範囲で、長期間摂取した場合の安全性確認や消費者への摂取上の注意の提供を行うように指導することを厚生労働省に求めた。コエンザイムQ10は、細胞の中にある抗酸化物質の一つで、美容や老化予防に効果があるとされる。

医薬品としてのubidecarenoneは、臨床治験を経て適応症及び適正な投与量が決定された。既に医薬品として承認されたものを、何故、食品として許可しなければならなかったのか。その辺の理屈が全く解らない。更に健康食品として許可した後に1日の摂取量や継続摂取量の心配をしてどうする気なのか。全て承認する前に、片付けておかなければならなかったのではなかったのか。

同じ新聞に『「大豆イソフラボン」摂取基準上限上回る商品』とする記事が出ているが、大豆イソフラボンについて、健康食品で、食事以外からの安全な 1日摂取量(30mg)を上回る商品が多数出回っていることが 22日、国民生活センターの調査で明らかになったとしているが、これなども最初に上限値を決定し、違反した場合は、その製品の製造を禁止するぐらいの罰則規定を作ることが必要ではないか。

食品に法規制は馴染まないというが、特定の機能性成分を抽出して製品化したものは、明らかに食品ではないはずである。だからこそ健康食品などと標榜しているのではないか。


  1. 高久史麿・他監修:治療薬マニュアル;医学書院,2005
  2. 中村丁次・監修:最新版からだに効く-栄養成分バイブル;主婦と生活社,2001