やっかいなことになってきた

水曜日, 8月 15th, 2007

2006 年12月、ノロウイルスによる感染が新聞やTVを騒がしていたが、ついに厚生労働省が警報を発した都道府県は45を数えるという。全国の570保健所の管轄区域ごとに、1医療機関あたり1週間で平均20人以上の患者が出ると、厚労省は保健所に注意喚起のための警報を発している。この患者数の全国平均が先月下旬、19.83人となり過去最高になったという。

しかも今回の感染拡大は、従来型の食中毒的感染ではなく、人から人に感染する二次感染によって拡大しており、ホテルにおける集団感染の報告も見られる。ホテルにおける拡大の原因が、客の吐物処理の不手際によるもので、絨毯を客が踏む度に空気中にウイルスが舞い上がり、感染が拡大したという。食中毒的感染にのみ眼を向けているうちに、ノロウイルスは反乱を起こしていたということのようである。

ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生するが、特に冬期に流行する。ノロウイルスによる食中毒の原因食品として、生カキ等の二枚貝あるいは、二枚貝を使用した食品や献立に含む食事が上げられている。その他、カキ以外の二枚貝では、ウチムラサキ貝(大アサリ)、シジミ、ハマグリ等が食中毒の原因食品として上げられている。但し、カキや二枚貝を含まない食品を原因とする食中毒も発生しているが、食品からウイルスを検出することが難しいことなどから、原因食品を特定できなかった事例が過半数を占めるとされている。

ノロウイルスは主にカキの内臓、特に中腸腺と呼ばれる黒褐色をした部分に存在しているので、表面を洗うだけではウイルスの多くは除去できない。また、カキを殻から出す時あるいは洗う時には、まな板等の調理器具を汚染することがあるので、専用の調理器具を用意するか、カキの処理に使用したまな板等は、よく水洗あるいは熱湯消毒等を行い他の食材への二次汚染を防止することが重要で、カキを調理したあとは手指もよく洗浄、消毒する。

東京・池袋のホテルで2006年12月2日昼、結婚式に出席した女性客が、3階ロビーと宴会場のある25階通路で2度にわたり嘔吐。ホテル側が中性洗剤で拭き取った。5 日昼になって不調を訴える利用客が出始め、利用客と従業員347人が下痢や嘔吐を訴える被害があり、池袋保健所で原因を調べたところ、患者が3階と25階の利用客に集中しているため、感染源は、ホテル内の絨毯に残った微量の吐物だった可能性が高いと判断。人が歩く度にノロウイルスが空気中に拡散、感染性胃腸炎を集団発症した疑いの強いことが分かったとされている。

患者の糞便や吐物には大量のウイルスが排出されるので、

  1. 食事の前やトイレの後などには、必ず手を洗う。
  2. 下痢や嘔吐等の症状がある人は、食品を直接取り扱う作業をしない。
  3. 胃腸炎患者に接する人は、患者の糞便や吐物を適切に処理し、感染を広げないようにする。

ノロウイルスの感染経路は殆どが経口感染で、次のような感染様式があると考えられている。

  1. 汚染されていた貝類を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
  2. 食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者等)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
  3. 患者のノロウイルスが大量に含まれる糞便や吐物(1g中に1万-1億個)から人の手などを介して二次感染した場合
  4. 家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合[12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例。乾燥して空気中に舞い上がっても、10日間程度は感染力が残り、ウイルス数個(10個程度)でも感染する。調理施設等の責任者は、下痢や嘔吐等の症状がある人を、食品を直接取り扱う作業に従事させない。また、このウイルスは下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度、長いときには1カ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにする。]
  5. ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合

潜伏期間(感染から発症までの時間):24-48時間で、主症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度。通常、これら症状が1-2日続いた後、治癒し、後遺症は見られない。感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もある。

食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされている。

流水による手洗いは、調理を行う前(特に飲食業を行っている場合は食事を提供する前も)、食事の前、トイレに行った後、下痢等の患者の汚物処理やオムツ交換等を行った後(手袋をして直接触れないようにしていても)には必ず行う。常に爪を短く切って、指輪等をはずし、石けんを十分泡立て、ブラシなどを使用して手指を洗浄する。すすぎは温水による流水で十分に行い、清潔なペーパータオルで拭く。石けん自体にはノロウイルスを直接失活化する効果はないが、手の脂肪等の汚れを落とすことにより、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果がある。

ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸はあまり効果が見られない。ノロウイルスを完全に失活化する方法には、次亜塩素酸ナトリウム、加熱がある。調理器具等は洗剤などを使用し十分に洗浄した後、0.02%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm)で浸すように拭くことでウイルスを失活化できる。また、まな板、包丁、へら、食器、ふきん、タオル等は熱湯(85℃以上)1分以上の加熱が有効。

床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理する祭には、使い捨てのマスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、糞便、吐物をペーパータオル等で静かに拭き取る。拭き取った後は、0.02%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをする。おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込む。

おむつや拭き取りに使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄する(この際、ビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の0.1%-次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい。)。

また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐物や糞便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防御に重要である。

リネン等は、付着した汚物中のウイルスが飛び散らないように処理した後、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いする。その際にしぶきを吸い込まないよう注意する。下洗いしたリネン類の消毒は85℃・1 分間以上の熱水洗濯が適している。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。その際も十分すすぎ、高温の乾燥機などを使用すると殺菌効果は高まる。布団などすぐに洗濯できない場合は、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を使うと効果的である。また、下洗い場所を洗剤を使って掃除をする必要がある。

今年はノロウイルスの爆発的な感染が起こっている。そこで気になるのが、新しいウイルスの爆発的な感染に対する対応策は大丈夫かということである。ノロウイルスは昔から知られたウイルスで、さほど毒性が強くないということで恐慌は避けられている。しかし、もしこれが毒性の強いウイルスの全国的な流行になったとき、適切な対応が出来るのかと疑念をもたざるを得ない。

envelopeをもたないウイルスは、エタノールに対する抵抗性があるといわれている。それでもなお、消毒用エタノールの使用に拘る医療機関がある。それでは止められる感染も止められない。なお、次亜塩素酸ナトリウムは金属を腐食し、着色した布等では脱色するので注意が必要である。更に塩素の毒性を気にする向きもあるが、空気の流通のよい解放空間で使用する限り心配はないはずである。

(2006.12.23.)


  1. ノロウイルスに関するQ&A(改定:平成18年12月8日):厚生労働省健康局・老健局;雇用均等・児童家庭局;社会・援護局;障害保健福祉部
  2. 読売新聞,第46972号,2006.12.15.
  3. 読売新聞,第46971号,2006.12.14.

Posted in 医論薬論 | Edit | Comments Off